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乱のefnのレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
4.2
 オープニングから度肝を抜かれる。仰角から眺めた丘陵に建つ兵士、その背後に聳える雲、広がる青空。以後も家督相続に巻き込まれた兵士たちが蜘蛛の大群のように城内に雪崩れ込んで天守に火を放つ。女にそそのかされた次男坊の指揮によって騎兵たちが草原を走り抜け、足軽の群れが愚鈍な蟻の大群のように続く。そのうねりに巻き込まれる旗印の儚いこと。
 何度観ても打ちのめされる。探しても探しても、これ以上に美しい広角、群衆映画を見つけることができない。分割構図のタブーを破った、本家であるデヴィッドリーンのアラビアのロレンスでさえ後半はロレンス個人のドラマだったし、エイゼンシュテインも十月で階段や橋を利用した奇抜な画を撮ってはいるが、終盤は冬宮殿のセットの限界に制約されてしまっている。色彩、陣形、何より隊列の美しさをフィルムに納めた作品は他にない。
 ただ惜しむべきはカメラの揺れやピントのボケがひどく目立つ事か。三脚が悪いのか望遠を使った途端に粗が出ていて、ロングショットもクローズアップも台無し。画質どうこうではなくピントがぼけているショットも多い。あと70mmで、そして宮川和夫でこの映画を撮って欲しかった。黒澤も監督に桁外れの予算を出す人間もいない今の世で言ってもしょうがないのだが。
 劇場のスクリーンで観た事があるが、とてつもない、まさに「浴びる」という表現がぴったりな作品だった。4Kリマスターも出た事だし、映画館で鑑賞する機会を与えてもらえないだろうか。黒澤の作品は七人の侍だけではないのだから。
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