グラビティボルト

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女のグラビティボルトのレビュー・感想・評価

4.4
「夜よこんにちは」も凄い映画だったが、こちらもそんな馬鹿な!というレベルで面白い。
冒頭の人を鼓舞するだけの強烈な演説でムッソリーニに惹かれてから延々と愛した男に傷付けられた人の映画。
ムッソリーニがいよいよ出世した時に、起立する群衆に振り返り、スクリーンに映る彼に背を向けるショットが良い。
彼が遠退いて行く事を意識させるシンプルなショット。
これとミュージカル的なケレンが融合してるから凄い。

ヒロインがムッソリーニに執着し続けた結果、精神病院に軟禁される展開になるんだが、牢屋の柵によじ登った彼女が息子への手紙を投げる場面の雪とか、強烈な審美性がある。
あと、特に前半のムッソリーニと逢瀬しまくる場面で戦争や演説のモンタージュが異様。

あと、時間の飛躍が凄い。
気がついたらヒロインとムッソリーニの子供が生まれていて、彼女は狂人として扱われてしまうし、ムッソリーニはどんどん出世していく。
精神病院に収容されてから息子が青年になって、ムッソリーニの真似をしてる場面に唐突に飛ぶ。

自分はムッソリーニの妻だと信じて譲らない彼女が最終的に世界に認められるような話でなく、ただそう信じた女とその息子が居たという事実を刻み込んでいるような映画なので、「勝利」を謳う邦題は合わない。
ただ彼女の存在を強くするだけに強烈な画面が在る。
ヤヌス・カミンスキーの撮影とか好きな人は早いとこ観といた方が良いと思う。
タイトルからは想像出来ないケレン、陰影の連続でお話どころじゃなくなる。