ryosuke

続・夕陽のガンマン/地獄の決斗 4K復元版のryosukeのレビュー・感想・評価

3.9
 民家の出入口にシルエットとして登場するエンジェル。ドル箱3部作において、リー・ヴァン・クリーフの魅力は大きい。一言も発さずに嫌らしい笑みを浮かべながら、人の家の食事を平然と食べる余裕たっぷりの彼は、『夕陽のガンマン』の紳士とはまた違った魅力がある。そしてイーストウッドの登場。絞首刑の縄を打ち抜き(『荒野の用心棒』でも見せた技だ)、帽子を連続で吹っ飛ばし、これまた一言も発さずに、地面に銃弾を一発で馬を発進させる。テュコを演じたイーライ・ウォラックの下劣で粗野でチャーミングな笑顔も素敵。リー・ヴァン・クリーフとイーライ・ウォラックがスター・イーストウッドに負けず劣らずの魅力で拮抗している。
 引き離されるたびに謎の偶然で三者が出会い続けるというプロットについては、イマイチまとまりを欠いており、エピソードの羅列感は強い。レオーネ特有のワンカットの強さ、ワンシーンのアイデアの面白さは十分ではあるものの、全体として緩慢なのは否めない。レオーネは基本的にはそういう人で、『ウエスタン』の緊密さ(いやそれでも中盤はダレたのだが)は例外的なものだったようだ。
 北軍の行進が停止し静寂が訪れた後、ブロンディを襲撃しようとするテュコ一味の足音が一歩分だけはみ出す。ブロンディはこれを聞き逃さない。再び行進が始まり音が戻ると同時に、ドアに手を伸ばす挙動と弾をこめる動作の引き伸ばしがサスペンスを生み出す。縄に首を通したイーストウッドがここからどうやって切り抜けるのかと思っていると、砲撃の衝撃で床ごと抜けてしまうという力技の偶然でちょっとお間抜けに処理される。本作は全体的にコメディーでもある。
 またも出会った二人。次は砂漠の画も魅力的な地獄の行進シーン。砂丘のふもとの人影と、さらさらと流れる砂を映し出した後、ティルトアップして二人を捉える。あるいは、画面手前に大きくイーストウッドが横たわるロングショットの中でテュコが水筒を投げ捨て、倒れ込んだイーストウッドの俯瞰ショットに切り替わると顔の横に水筒が転がってくる。砂漠の強烈な日光で火傷をしたイーストウッドの水ぶくれだらけの顔。このシリーズに相応しく、やはりイーストウッドの顔は崩れていく。
 護送中のテュコが逃走するシーンの切れ味も良かった。隙をついて汽車から飛び降りると、即座に護送の兵士の頭部を何度も石に打ち付け絶命させる。巨漢の兵士を線路に横たわらせ、汽車の力で手錠の鎖を千切るダイナミックな仕掛け!続いて、過ぎ去ろうとする汽車のロングショットの中で汽車に飛び乗る彼が小さく映る。いやあ映画だねえ。
 ブロンディとテュコが共闘してエンジェル一味と戦うシーン。ここでも砲弾が撃ち込まれ、戦闘の場に砂けむりが生じる。このように、南北戦争はあくまで三人の戦闘にギミックをもたらす味付けでしかなかったのだが、要衝である橋をめぐる戦闘シーンでは、大量の人員と火薬によって、突如ガチ南北戦争映画の大迫力のカットが披露される。お金があるとあってもなくてもいいシーンがこれだけ魅力的になるということを見せつけられた。目的地付近の南軍をどかすためだけに橋を爆破するという荒唐無稽な作戦が素敵。映画における橋の破壊は楽しいというのは、『戦場にかける橋』や『キートンの大列車追跡』も示してきたことだ。爆破の際、伏せる二人の側に大きめの石が飛んでくるのが臨場感を生んでいるのだが、これは狙ってコントロールしてるのか事故なのか。
 隙をついて一人馬を走らせるテュコに対し、葉巻の火を大砲の導火線に近づけるブロンディ。これで見事に狙えてしまう。もうコメディーだな。テュコは砲撃の勢いでそのまま転がって墓石に頭をぶつけ、目的地に辿り着く。魅力的な運動の連鎖が物語を動かすのが映画だ。巨大な墓場の大俯瞰ショットの中で、物語の随所に登場していた犬が導入され、テュコと共に駆け回る。この光景は、現代アメリカがどれだけの数の死体の上に築かれてきたのかを克明に示している。走り回る彼の望遠レンズによる素早いパンにより、次第に背景が模様になっていき、急激なズームインで目当ての墓石を示す。面白い見せ方だ。
 そしてラストシーンが素晴らしかった。やはり三者は示し合わせたようなタイミングで集結するのだが、イーストウッドが例のポンチョを着ていることで、コメディーは終わり、ここからは殺し合いなのだということが一瞬で伝わる。「歴史の浅い国」アメリカが保有している19世紀西部の「新しい」神話の男イーストウッドは、『夕陽のガンマン』のラストと同じく、円形の運命の場をセッティングしてみせる。
 「その瞬間」まで延々と引き伸ばされる視線の交錯の濃密さは、もはや愛を確かめ合っているといってよい。これは、エンジェルを一発で(文字通り)墓場に送り込み、テュコは弾を出すことができないという少々お間抜けな決着をみせるのだが。そして、神話の男イーストウッドは墓に入った無名戦士に物語上の地位を与えてやる。続け様に画面内に侵入する縄。遠ざかるイーストウッドとバランスを失いつつあるテュコを見ながらも、観客は、『ウエスタン』の首吊りの悲劇のような事態が引き起こされる訳ではないことをよく承知している。イーストウッドが相棒にお約束の一発をプレゼントし、テュコの顔が金貨袋に激突する瞬間のストップモーション。素晴らしい切れ味。
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