茶一郎

大統領の陰謀の茶一郎のレビュー・感想・評価

大統領の陰謀(1976年製作の映画)
4.0
『 お仕事シリーズ:しんぶんきしゃ 』

 ひたすらに、電話、訪問、聞き込み、これこそSYU・ZA・I
インターネットもメールもない時代に真実を追求し、大統領を追い詰めた人のお話。

◆前置き◆ 
 ウォーター・ゲート事件といえば、共和党のニクソン大統領が野党の民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした、という大統領による国民の監視が暴かれたもの。

私事ですが、事件当時は生まれる前。今作でも描かれる、主人公たちに内部の情報を提供する『ディープスロート』と言われる人物の正体が判明したのが9歳か、10歳の時。事件をリアルタイムで体験できず、後追いした自分が見ると、今回の事件がいかに権力を武器にした闇の深いものだったのか、とても驚いた。(もっとも、当時の人でさえ、この事件がここまで深いものと思っていなかった様子が今作で描かれる。)
◆前置き終了◆
 
 単なるドキュメンタリードラマにとどまらない、むしろ『ジャーナリズムとは何か?』的。
とても骨太なポリティカル・サスペンス。
映るのは、淡々と、真実を求める主人公たちの姿で、その真実には、分かりやすさや明快なカタルシスなどなかった。
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 『ジャーナリズムとは公正という正義を遂行することだ』
とどこかで聞いたことがあるが、権力者を相手に、いわば社会相手に真実を求めることがここまで大変なこととは……

 再選委員会の名簿を一人一人当たっては門前払い、主人公たちは気の遠くなるような回数の『取材』を繰り返す。最も見ているこちらを途方の暮れる思いにするのは、国会図書館の貸し出しカードを調べるシーン。
おそらく1000枚はあるであろう貸し出しカードから、事件の関係者の名前を探していく。俯瞰視点で、段々とカメラは離れていき、疲労感と共に意識が天に上ってしまうような、そんな感覚になった。
全編、画面全体に焦点の合ったパンフォーカスの画作り。主人公たちが電話をしている後ろで、常に何かが動いている。一番の見所が『電話をしているシーン』というのもこれまた珍しい。

 真実を追って、ついにたどり着いたかと思うと、強い力によってねじ伏せられてしまう。
黒幕である大統領の就任宣誓の裏では、タイプライターを打つ音だけが鳴り響いていた。
茶一郎

茶一郎