茶一郎さんの映画レビュー・感想・評価

茶一郎

茶一郎

リアル・ペイン〜心の旅〜(2024年製作の映画)

4.2

 心地良い。「心の傷」を描きながらも、ショパンの旋律を通奏低音に軽やかな印象を与える新たなロードムービーの秀作。心の病、虐殺からの生存、離婚経験、各々が抱える個人の“痛み”をポーランドの街に刻まれた傷>>続きを読む

スピーク・ノー・イーブル 異常な家族(2024年製作の映画)

3.7

 人類には一年に二回の「胸騒ぎ」はキツいと思っていたが、別の味付けの作品になっていて驚く。ブラムハウス的な『胸騒ぎ』解釈は実にハリウッドジャンルムービー的で、原作に納得できなかった観客を救うようなリメ>>続きを読む

どうすればよかったか?(2024年製作の映画)

4.5

 凄まじく、奇跡のようなドキュメンタリー。おかしな言動を取るようになった姉を、両親が精神科の受診を避け、玄関に南京錠をかけて家に閉じ込めた……その行為を誰が責められるのか?
 「どうすればよかったか?
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ドリーム・シナリオ(2023年製作の映画)

4.0

 2024年のコメディ作品の中でも上位に入るほどに好きな作品。
 平凡な中年男性が、ある日、何百人もの夢の中に現れた事で一躍有名になる……現代のバズ文化を批評するコメディであり、加齢と共に無意識的に加
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グラディエーターII 英雄を呼ぶ声(2024年製作の映画)

3.7

リドリー・スコット作品また『グラディエーター』続編としては平凡な出来。リドリー・スコット監督作としては初の正統派続編にして、やや前作を機械的に反復しているだけのように見えてしまった。ただ史劇スペクタ>>続きを読む

ロボット・ドリームズ(2023年製作の映画)

4.5

 2024年最も感動的な新作映画だったと思う。動物の擬人化に加え、余りにもシンプルなキャラクターデザインに“ナメて”鑑賞した所、描かれる「人生の出会いと別れ」……その人生の美しさと切なさを解像度高く落>>続きを読む

レッド・ワン(2024年製作の映画)

3.3

 超絶大味な映画!サンタ役のJ・K・シモンズを、サンタ護衛隊長のロック様とクリス・エヴァンスが救出する…という設定の段階でかなり大渋滞…筋肉至上主義的クリスマス・ファンタジー。
 「ぼくの かんがえた
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十一人の賊軍(2024年製作の映画)

3.3

 間口の広い堂々たる時代劇エンターテインメント。宣伝で推されている「東映集団抗争時代劇」の過去傑作にあったようなドライさ、クールな画、冷徹な視点は薄味なので、「集団抗争時代劇」「原案・笠原和夫」といっ>>続きを読む

ヴェノム:ザ・ラストダンス(2024年製作の映画)

3.5

 大人な喉越しの映画。「ヴェノム」シリーズとしては見事な大団円だと感じた。ようやく作り手はエディとヴェノムがイチャイチャしているだけで映画になると気付いたようで、彼らのやり取りに極限まで焦点を当ててい>>続きを読む

ノーヴィス(2021年製作の映画)

4.1

 狂気の一本。競技ボート部に入部した主人公の様子がおかしい。どうやら彼女は「努力すること」「ライバルを蹴落とす事」自体に中毒になっているようで、徹底的に自分を痛めつけ追い込んでいく……もはやセルフ『セ>>続きを読む

トラップ(2024年製作の映画)

3.8

 シャマランの安定した匠なサスペンス術を堪能できる一本。
 娘とコンサートに来場したが、そのコンサートが連続殺人鬼を逮捕するための「トラップ」で、主人公こそが連続殺人鬼……という出オチ映画に思いきや、
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リトル・ワンダーズ(2023年製作の映画)

3.8

 最高に可愛い映画!パイを手にいれるため、魔女……火の妖精……剣と魔法の大冒険に出る。『ムーンライズ・キングダム』好きは確実にハマると思います。
子どもたちの想像力がキラリと光り映画を彩る、全編「ロー
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ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ(2024年製作の映画)

3.4

 単体の映画としては不格好だが、『ジョーカー』続編としては誠実な作りだと思った。『ジョーカー』に(悪)影響を受けてしまった観客を作り出してしまった現実の社会を見つめ直すと、この続編になって仕方無しとい>>続きを読む

破墓/パミョ(2022年製作の映画)

4.2

 凄まじい勢いとパワー!初見時はただただそのパワフルな語り口に圧倒され、二回目見ると巧妙に伏線が張られ、謎も説明されていると気付く。個性豊かなキャラクターたちが魅せるハイテンションホラー。タイトルで損>>続きを読む

シビル・ウォー アメリカ最後の日(2024年製作の映画)

4.0

 「現実の分断/分極化」をロードムービーとして切り取るSF寓話。今年の重要作だと思う。
 現代版『地獄の黙示録』という触れ込みの一方、実際は戦場カメラマンを主人公に引いた目線で戦闘現場を目撃する『危険
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憐れみの3章(2024年製作の映画)

4.5

 暗黒大爆笑。「奇妙な波」時代に回帰したキレキレの監督による三つのブラックコメディ…時にグロテスク、時に神話的で、ずっと意地悪だ。
 三週間という短期間で撮られたためか、監督作で唯一「アメリカ映画」を
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Cloud クラウド(2024年製作の映画)

4.5

 「SNSについての寓話」から「活劇」への華麗なる転換。何て美しいのだ!と、黒い魅力を放っている菅田将暉さんに目を奪われた。
 怪奇映画から飛び出してきたような一戸建てから廃墟までロケーション選びの巧
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ぼくが生きてる、ふたつの世界(2024年製作の映画)

3.6

 聴覚障がい者の親を持つ子を主人公とした日本版『Coda コーダ あいのうた』と思いきや、全く異なる感触。親と子の成長の日々を長いスパンで、丁寧に、丹念に描く呉美保監督の眼差しがとにかく優しく、温かさ>>続きを読む

侍タイムスリッパー(2023年製作の映画)

3.7

 思わず息を呑むシーンがありました。幕末の侍の心情と時代劇が衰退する現在とを重ねながら、「侍が現代の日本に」というジェネレーションギャップ・コメディに止まらない。作品内に「ウソの侍」と「ホンモノの侍」>>続きを読む

悪魔と夜ふかし(2023年製作の映画)

3.8

 「エクソシスト」ホラーと70年代ショービズの絶妙なチープさ、時にホラー、時に演技で魅せる、見事なブレンド。
 1977年全米を震撼させたという、トークバラエティでの悪夢の一夜を巡るフェイクドキュメン
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ぼくのお日さま(2024年製作の映画)

4.4

 あまりの多幸感に笑顔のまま涙を流してしまった。感動するシーンでもないのに、登場人物たちがひたむきにアイスダンスに向かう姿、劇中の荒川のセリフの通り子供の純粋さにサラーっと涙が流れる。
 「お日さま」
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エイリアン:ロムルス(2024年製作の映画)

3.9

 優等生シリーズファンの作った“新しさ”と“古さ”が共存する秀作。上手くシリーズの良い所取りをしながら、絶妙に新しい設定を掛け合わせている。
 また貧しい若者が「ここではないどこか」を求めて強盗するフ
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蛇の道(2024年製作の映画)

4.1

 毒がスルスルと喉を通っていく感覚が強まった。気付いたら復讐が始まっており、気付いたら地獄の底の日常的な行為としての復讐を見せられ、復讐は何度も延長される、この「終わらない」地獄の日常感。オリジナル版>>続きを読む

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたい(2019年製作の映画)

3.8

 ポップで激しい『大人は判ってくれない』系譜の最新版。幼少期のトラウマが原因で、色々な養護施設で暴れトラブルを起こしては強制退院、あらゆる施設をたらい回しにさせられている(「システムクラッシャー」と呼>>続きを読む

ありふれた教室(2023年製作の映画)

4.3

 2024年度「低脂肪」映画グランプリ(暫定)。学校を舞台にした作品ながら、カリスマ教師も超問題児もいない。青春の一幕も生徒と教師の友情も映らず、仕事で悩んだ若手教師が親に電話をかけるお決まりもない。>>続きを読む

悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.2

 「面白かったー」と軽く言いたい。それくらい軽やかな面白さがあった。
 静謐で美しい詩的映像と、いつもの濱口監督作らしい軽妙で、時に緊張感を保った会話劇。音楽・石橋英子さんとのコラボレーションが前提に
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異人たち(2023年製作の映画)

4.1

 「あなただけが孤独ではないよ」とそっと抱きしめてくれる感覚があり、鑑賞後、心が澄み渡った。原作を「ゴーストストーリー」ではなく、都市において孤独な男性の物語として、その「孤独」が極端に可視化されてい>>続きを読む

オッペンハイマー(2023年製作の映画)

4.7

 映画の力を使いオッペンハイマーを、永劫の罰に閉じ込める。クリストファー・ノーラン監督の映画は常に「私は映画だ!!!」と高らかに叫ぶものだが、その「映画」の力(時にそれは「映画編集」時に「スペクタクル>>続きを読む

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)

4.5

 興奮して公開前に5回鑑賞してしまった。今一つ目の前で行われている事の凄さを頭で処理する事ができず、5度見したような感覚。「映画」というより「大聖堂」や「大仏」に近い荘厳さと大きさがある、とにかく大き>>続きを読む

落下の解剖学(2023年製作の映画)

4.2

 「裁判という“真実” 製造装置」映画。ある裁判において一つの「家族」が暴露される過程を描く、原題『Anatomy of a Fall』と聞くとどうしても『或る殺人』(Anatomy of a Mur>>続きを読む

ボーはおそれている(2023年製作の映画)

4.2

 大人になったのに鎖のように硬い “へその緒” がまだ自分に付いている感覚……帰省のため実家に向かう時の足取りの重さが自分と重なった。まさしく学生時代、実家から送られてくる冷凍食品とお米で腹を満たし、>>続きを読む

夜明けのすべて(2024年製作の映画)

4.6

 「絶対にこの映画は私を受け入れてくれる」と観客に確信を与える優しい映画世界。生きづらさを抱えた二人にカメラは適切な距離感を保ち(劇中登場する中学生のドキュメンタリーのように)、優しく見つめ、決して二>>続きを読む

アクアマン/失われた王国(2023年製作の映画)

3.5

 何故だか懐かしい。ラッセンの絵でしか「海」を知らない人が作った「海」の「スター・ウォーズ」再び。
 冒頭、アクアマン=主人公アーサーが赤ん坊に向かって自らのヒーロー活動を人形劇で見せるシーンがあるが
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彼方のうた(2023年製作の映画)

4.0

 心休まる映画体験と同時に「この映画をなるべく多く体に取り込もう」と緊張感を持って観入ってしまった。
 濱口竜介監督の『天国はまだ遠い』と勝手にリンクしたくなる小川あんさん演じる主人公は幽霊のように世
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(2023年製作の映画)

3.8

 『御法度』のように衆道/男色を軸に本能寺の変を解釈した、 予告編から想像できる戦国時代版「アウトレイジ」とは少し異なる、後味は『龍三と七人の子分たち』に近い、後味は『TAKESHIS'』に近い、奇妙>>続きを読む

ザ・キラー(2023年製作の映画)

4.4

 中毒性凄まじい。ネオ・ノワールともコメディとも観れる「殺し屋お仕事ムービー」の本作は、必然的に監督デヴィッド・フィンチャーによる「お仕事ムービー」としても観れてしまう。
 殺し=アクションより待機時
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