「裁判という“真実” 製造装置」映画。ある裁判において一つの「家族」が暴露される過程を描く、原題『Anatomy of a Fall』と聞くとどうしても『或る殺人』(Anatomy of a Murder)を連想するが、感触は『マリッジ・ストーリー』に近いかもしれない。観客は『或る殺人』の主人公のような「名弁護士」ではなく、傍聴人もしくは裁判官に視点を代入し“真実” とやらに翻弄されていく。
冒頭、ボールの「落下」と主人公へのインタビューが描かれ、そのインタビューが鑑賞中の観客の心の声を代弁してくれる。「どこが事実と架空の境目か観客は知りたくなる」。事実を元に架空の物語を作り続けてきた私小説作家が、裁判においてもやはり「架空の物語」を作っているのか!?そうつい思ってしまう観客の思いも劇中のワイドショーで代弁される。「そう考える方が面白い」。
上映時間ずっと“真実” に観客を巻き込み「藪の中」に連れ込みながら、安易な着地をせず、映画が終わった先の登場人物たちの人生を感じさせる幕引きが見事。【記録】