翼

ゴッドファーザーの翼のレビュー・感想・評価

ゴッドファーザー(1972年製作の映画)
4.6
マフィアは雇われて人は殺さないが、お前がファミリーなら話は別だ。一銭もいらない。

この台詞で幕が開ける重厚さ。激しさと物悲しさの烟るマフィアの世界に翻弄されながら染まり、ドンに成っていくマイケル・コルレオーネという男の叙事詩。眼を隠す陰影を纏った俳優たちは多くを語らないが、覚悟の決まった眼光と静かなる佇まいがその秘めた激情を物語る。

今更ながらこの名作を知ることで、この作品が世界に与えた計り知れない影響を二次的に知る。ギャング・ヤクザとはまた違ったマフィアという一つの概念。基はシチリアの農地管理団体のポリシーみたいなものが、一つの価値観として結実し世界を席巻するカルチャーに至った功績を本作が担っている。名画にはそれだけの力がある。

堅気のマイケルが初めて仕事として殺人を執行する、もう戻れないと天を仰ぐ動揺、そして覚悟。そしてドン・コルレオーネが抗争で息子を失いながら、5大ファミリー談合の席につき休戦を申し立てる表情。カットとしては描かれない心情に思いを馳せるほど世界が拡がる。この「わざわざ描かないけどしっかりと拡がる奥行き」こそがゴッドファーザーを名作たらしめている真因だと感じる。

中でも目を見張るのは、キリストの洗礼を受けながらその裏で数々の殺人が執行されていく描写。その表裏をマイケルの眼光だけが物語り、ゴッドファーザーとなることは人とは一線を画したものになることを示唆する、残酷に哀しくも美しい描写。アル・パチーノの表現力、ここに極まれりといった眼差しだった。
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