shishiraizou

無言歌のshishiraizouのレビュー・感想・評価

無言歌(2010年製作の映画)
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2回目の観賞

倒れた者は抱え起こされ、命の灯がきえた死体は、布団とともに紐で縛られて荷車で運ばれる。人間の肉体の、そのちょうどひとりの重さ、まずは物質性。
その物質である人間から、かすかに立ちのぼる尊厳、と、ただのモノ、数として認識されることとの、境はどこにあるのか

夫を亡くした女が、悲嘆する思念の塊のようになって、滑るように大地を休みなく移動してゆく、カメラも思念となってそのあとを追い続ける。亡骸のうえで叫ぶ女。天上の世界のごとく空気も薄い、やがて日は沈み、男二人は夜の光のなか逃走する、大地に大気はなく、月のうえを歩くような、幽玄そして宇宙的でもあるビジョン

デコボコした、アルマイトの食器か、カリカリ音をたてて汚い茶色い飲食物が掬われる、映画のクラシックな記憶。壕には斜めに太い光の束が射し込み、出てみると風が吹きすさぶ砂の大地。この広がりにも、映画の、人間と土の関係の、太古の記憶があった
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