けんたろう

ルパン三世 カリオストロの城のけんたろうのレビュー・感想・評価

5.0
この世界のなによりも輝いている宝物のおはなし。


改めて観ると、とんでもなくドラマチックでスケールの大きな物語。
今日日、地球全体や宇宙を舞台に描かれるアクション映画が数多あるなかで(また私自身それに慣れているなかで)、と或る小国の一城が舞台となった本作の攻防は一見規模が小さく感じられる。が、それでも本作のスケール感はやはり桁違いなのだ。これには、なにか黒澤明の『七人の侍』に似ているものを感ぜられてならない。きっとあらゆるカット、シーンを効果的に駆使すれば、どんなにミニマムな世界でも壮大な物語になりうるのだろう。あゝ、正に映画だ。これはやはり映画館で観る代物なのだ。
くわえて不幸な少女を救い出す格好いいおじさんの物語として、これ以上ないくらいの感動巨編である。出会いから別れに至るまでの流れは、もはや筆舌に尽くしがたい。やはりこれもテレビサイズで観るのとはまるで違うものだった。

くわえてとにかく素敵な一つひとつのシーン。
長年相棒として数々の修羅場を乗り越えてきたコンビが織りなす阿吽の呼吸とでも言うべき、ルパンや次元の掛け合いには興奮が止まらない。なんたってこんなに、会話ひとつとっても見事なんだ。
テンポがよすぎて最早コメディなアクションにも心が躍る。ルパンという、今やなんでもできそうなキャラクターを使いながらもハラハラとさせられるのだから、もう凄いの一言に尽きる。
ルパンと銭形の共闘はなんだか黄金コンビの気がして面白く、また銭形と不二子のタッグはコメディ色が強くてこれも好かった。
ルパンがクラリスに夢を見せる場面などは言わずもがな。
とかく忘れられないシーンが多すぎる。きっとどこをどう切り取っても魅了されよう。

そうしてクラリス。
可憐な姫。誰しもが魅了される素敵なお嬢さん。果たして惚れない奴など、この世に存在するのだろうか。こんな子に「私も連れてって」なんて言われちゃあ、おいらもう駄目になっちゃうよ。うゝ…あゝルパン!ともかく少し違和感のある、優しいヒーローに徹したルパン像も、恐らく彼女が生みだしたものなんだろう。宮崎駿とルパン三世の邂逅がもたらしたものと言っても差し支えあるまい。不二子が不二子不二子していないのも、もしや彼女が為かしら。

極めつけは、ラストの別れ。
清廉な少女を抱くに抱けない男の、その腕の動きひとつで涙が出てくる。あゝルパン。本当は連れて行きたい。けれども連れて行かれない。唇を捧げた少女の額にくちづける大人の男よ。冗談めかして去っていくことしかできない道化の悲哀よ。最高にダサいぜルパン。でも最高にカッコいいぜルパン。
あゝルパン。大人な女の優しく落ち着いた曲が心に染みる。炎のたからもの。

「奴はとんでもないものを盗んでいきました──」
映画史上に残る名言を残し華麗に去っていく、夢のなかの物語。観た者の思い出に燦然と輝きつゞける永遠の御伽噺。
今宵も余韻は消えそうにない。