けんたろう

サン・セバスチャンへ、ようこそのけんたろうのレビュー・感想・評価

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オマージュが悉く無粋なおはなし。


会話が見事なまでに詰まらない。喋り方も気に食はない。独りよがりの年老いた男(=主人公)に何うしやうもなく腹が立つ。一体何んなんだ此のジヾイは。
第一俺れは、てめえは偉大でも何んでもねぇくせに、恥づかしげもなく偉さうに上から目線でペラペラと映画の話しをし、御得意のしたり顔で文化人然としたる、調子に乗った連中、通称「シネフィル」が大嫌ひなんである。何が嫌ひかって、先づ遣ってゐることが下品である。然うして亦た、下品であるくせに上品ぶってゐるのが、一層下品である。何時か絶対全員必ず、其の伸び伸びと高くした鼻を捥いでやらん。

さて、此のたび捥ぎたい鼻が一つ増えてしまうたのだが──いや其れどころではない。一体何んなんだ此のジヾイは。
劇中諫められてゐたとほり、高尚な趣味をひけらかしてばかりなのは勿論なのだが、其れどころではない。
己も其れ──要するに糞生意気なシネフィル症候群──を遂に自認し、反省をしてゐたが、いや其れどころではない。ひけらかし性なのは全然根本の問題ではない。全然違ふ。根本は、自分の喋りたいことばかりを喋る、コミュニケーションの出来ない、詰まりは相手のことなど丸で気にしてゐない事であらう。
彼れは真に他人を気にかけない。故に他人から気にかけられない。今のところ環境に恵まれてゐたゞけで、単なる独りよがりの孤独な糞ジヾイである。シネフィル何う斯うの話しぢゃない。此れでは、会話が面白くないのも当然である。

無論面白いところも有った。
例へば「 ”現実” を描けば批評家の連中は名作だと持ち上げる」といふのは、昨今の賢しらなる薄っぺらいエセ文化人を大いに皮肉ってをり、非常に可笑しい。
又た、ルイ・ガレルが役に途んでもなくハマってゐる。彼の気取った雰囲気のフランス野郎には、抜群に腹が立ち、滅茶苦茶に面白い。

何んだか想像してゐた作品と割り合ひ違うてゐたのだが、思へば、ウッディ・アレンの作品は其んなに観てゐなかったので、其れあ私しの知見が足りてゐなかったといふものである。此れを機に、彼れの膨大なフィルモグラフィに挑戦してみるのも悪くないかも知れない。


最後に。
「なにか云ひたいことは?」とか、亦た小偉さうに抜かしてゐやがったが、──何んもねぇよ馬鹿野郎。