CINEMAと暮らす

父 パードレ・パドローネのCINEMAと暮らすのネタバレレビュー・内容・結末

父 パードレ・パドローネ(1977年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

教育の機会を奪われた少年の生きる道
 この映画は35歳のガビーノの物語。小学校に通うガビーノは羊飼いの父の命令で学校をやめ、家業の手伝いをさせられる。文字もわからず、羊の乳搾りのやり方もわからないまま20歳を迎える。
 街に向かう少年たちを見つけ、彼らの壊れたアコーディオンと羊1匹を交換する。大人になっても父が怖いガビーノは言い訳をしてなんとか事なきを得る。
 貧しい農家だったが、知人の農主が殺される。ガビーノはオリーブ園を引き取り、地主になるが、寒波の影響で全滅してしまう。
 友人と共にドイツへ移住しようとするが、父のサインが無く、断られてしまう。取り下げのサインを求められるが、文字の書けないガビーノは十字マークでサインをするのだった。
 移住に失敗し、家に帰るガビーノ。父は農場を売り、子ども達に働きに出て家賃を入れるよう命令する。ガビーノは家を出て軍隊に入り、軍人か職人になるよう命令される。父は「大人になったら小学生を卒業させる」という約束を守り、勉強の機会を与える。
 勉強の楽しみを覚えたガビーノは軍人にも職人にもならず、大学に行き言語学者になると父に伝える。それでも、農業を続けさせようとする父に、「自分を助けたのは血のつながらない人間だった。父は自分を奴隷のように手懐け、服従させてきた」と反抗する。
 ガビーノは自分を殺そうとした父を返り討ちにし、家を出る。やがてローマ大学に進学したガビーノは言語学者になった。

第30回カンヌ国際映画祭 パルムドール受賞作
イタリアの文学賞ヴィアレッジョ賞を受賞したガビーノ・レッダの自伝を映画化

父権的な父に教育の機会を奪われたガビーノが自分の意志を持って生き始めるまでを描いている。
第二次世界大戦直前に生まれ、終戦後に実家で働き始めることになるが、そこに戦争の影響は示唆されていない。(ガビーノを連れ出した後の同級生たちのモノローグから貧富の差は伺える)
 父には虐待癖があり、決して良い父親ではなかったが、貧しい家をなんとか支えるための苦肉の策として、息子の教育を諦めたのかもしれない。
 戦争の影響以前に、ガビーノが暮らす広大すぎる土地には貧しさが広がっていたのだろう。近所の農家でも児童労働が当たり前で、その問題を解決しようとする人間は現れない。そうして、あっという間に大人になってしまうのが、彼の暮らす世界のリアルだったのだろう。
 ガビーノの幼少期から70年以上経っているが、2021年時点で約1億6千万人の子どもが児童労働に従事しているらしい。まだ、この物語は続いている。