しゃび

裏窓のしゃびのレビュー・感想・評価

裏窓(1954年製作の映画)
4.0
スクリーンから殺人犯が飛び出し、我々に襲いかかってきたらどうだろう。

スクリーンに見立てた窓が映し出す人間模様を、観客に見立てたジェームズ・スチュアートと共に眺める。隣にはグレースケリーが銀幕感をビンビンに漂わせ、何とも贅沢に寄り添ってくれる。

メタ映画的な構造を持ちつつ、サスペンスとホラーを絶妙にシフトさせるヒッチコックは流石だ。


足を怪我したジェフが向かいのアパートを覗く。ジェフの視界に対して従順なカメラは、我々に視覚的優位性を与えない。
もはや我々はジェフであると同時に、アパートを覗き見するジェフをさらに覗き見する観客でもある。カメラはジェフの眼差しと、ジェフを捉える第2の眼差しという二重の役割を担っている。

窓に映し出される断片的な光景でしか、我々は人間模様を見ることができない。しかもジェフがちょいちょい寝てしまうため、その度にカメラもシャットダウンされてしまう。これはまさしく映画の構造そのものである。


しかし観客とスクリーンの平和な均衡は不意に崩れる。 観客はスクリーンに侵入し、スクリーンから殺人犯が飛び出してくる。

ジェフは動けない。怪我しているから。
我々も動けない。ジェフだから。

均衡を破ったのはなんと麗しきグレイスである。あの優雅な彼女はどこへ行ったのか、急にスタンドプレーに走り、ジェフを窮地に追いやる。

サスペンスごっこからホラーショーへ。

裏窓を眺めたまま平和に終わらせてくれるヒッチコックではない。

こうしていつもヒッチコックにいいように踊らされるのだ。試験に出そう映画であると同時に一流のエンターテイメント作品である。


何よりグレイス・ケリーがいい。
形式的なハリウッドスター然として、優等生的に現れたと思ったら、急に荒技を繰り広げるB型女子に早変わり。男は皆こういうギャップに弱い。
しゃび

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