洋画好きのえび

パーフェクトブルーの洋画好きのえびのレビュー・感想・評価

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)
4.0
劇場でのリバイバル上映を観てきました。
2時間無いとは思えないほどの内容の濃さでした。めちゃくちゃ怖かった。色んな意味で。

「あなた…誰なの?」

上記は主人公の霧越未麻が出演するドラマの役のセリフですが、このセリフがこの作品を表していると言っても過言ではありません。

自分は本物なのか?偽物なのか?今見ているこの世界は現実か?幻想か?このあまりにも辛い状況は実は全て幻想なんじゃないか?

あまりにも過酷な状況に置かれた未麻の精神が疲弊し、崩壊していく様がファンタジックに、かつ、グロテスクに描かれます。この描き方が本当に怖い。本心から未麻の異変を心配している人がいないのも恐ろしい。結局のところ、全ての人間が未麻に「自分の理想の未麻」を押し付けているだけという…

そして、未麻の崩壊と並行して描かれる殺人事件にも心底恐怖を感じました。「アイドル」の語源は偶像崇拝ですが、自分の望む姿ではなくなった偶像に怒りと殺意を向ける人間の身勝手さと恐ろしさは恐怖でしかありません。そして、本当に全ての殺人事件の犯人はあの人物だったのか…??

本作はインターネット黎明期の1998年に公開された作品ですが、結局この頃から人間の本質は変わっていないのかもしれません。夢と引き換えに心を削って望まない仕事をせざるを得ない環境に置かれてしまった人、気に食わない人間にネット上で「制裁」を騙って誹謗中傷を繰り返す人…
今敏監督の人間描写にただただ脱帽した81分でした。