洋画好きのえび

ラストナイト・イン・ソーホーの洋画好きのえびのレビュー・感想・評価

4.2
ほぼ1年ぶりくらいに映画館で映画を鑑賞しました。コロナ感染も落ち着いているし、同居家族からもOKが出たので満を辞して映画館へ。やっぱり映画は映画館で観るのが一番楽しいですね!!

さて、本作は「60年代音楽に乗せたサイコホラー」という宣伝文句と、CMで妖しげな微笑みを浮かべて踊る超絶かわいいアニャ・テイラー・ジョイを見て、絶対これ面白いでしょ!!と思い鑑賞したわけですが想像していたストーリーと全然違った。怖っ!めちゃくちゃ怖っ!!CMでキラキラしたアニャちゃんを見ておしゃれムービーだと思って劇場を訪れた方々はさぞ驚いたことでしょう。デートムービーだと思って観に行ったカップルがいないことを祈ります…
上述の通り、本作はめちゃくちゃ怖いです。でもめちゃくちゃ面白い。ストーリー構成も、音楽の使い方も、映像もよく考えられています。ネタバレ踏まずに劇場で観ていただきたい。

物語はイギリスの田舎町コーンウォールに住むエロイーズが、ロンドンのソーホーにある美術大学の服飾科の合格通知を受け取ることから始まります。60年代のファッションが大好きなエロイーズは、デザイナーになることを夢見ていました。そんな彼女は期待に胸を膨らませながらロンドンへ。しかし、タクシー運転手に「足綺麗だね〜どこ住んでるの?」とセクハラ発言されるわ、寮のルームメイトの同級生から田舎者扱いされて嫌がらせをされるわ、同級生たちのパーリーピーポーなテンションについて行けないわで、初っ端から心身ともに疲弊するエロイーズ。そんな時、女性限定ワンルームアパートの貸出広告を発見したエロイーズは、その広告に飛び付きます。物件を見に行くと、古いながらも60年代の家具内装がそのまま残された綺麗な部屋に、エロイーズは引越しを決断します。やっと落ち着ける空間を手に入れることができたエロイーズでしたが、引っ越した日から不思議な体験をすることに。夢の中で1960年代の女性サンディの体験を追体験するようになったのです。
歌手を夢見る美しく強気なサンディに魅せられ、また、大好きな60年代を追体験できることに喜びを感じたエロイーズは、毎晩みる夢を心待ちにするようになりますが、ある日の夢を境に状況は一変します。そしてある日、ついにエロイーズはサンディが殺害される夢を見てしまうのです…

ネタバレなしでのレビューはキツそうなので、そちらはコメント欄に書くことにして、こちらでは本作を見て感動した色使いの上手さについて書こうと思います。
本作、映像の色使いが本当に絶妙なのです。

前半は煌びやかな60年代のソーホーの美しい映像、魅惑的なサンディの姿が本当に美しく、サンディがダンスフロアで踊り出すシーンで一気に心を掴まれました。金色や落ち着いた赤、白、華やかなピンクといった明るく上品な色を中心として衣装や美術がデザインされていて、ライティングもスポットライトのような明るい色味になっています。このゴージャスで煌びやかな映像にエロイーズだけでなく観客も胸が躍り、サンディのサクセスストーリーを予想させますが、途中でその煌びやかな映像はテイストが一変します。
サンディの凋落が発覚したシーン以降、毒々しく不快でネオンチックな色使いに変わって行くのです。それはまさに場末のクラブのネオン看板や安物の金銀メッキのような安っぽい色で、前半の上品な雰囲気とは真逆のテイストであり、サンディがこれからどうなってしまうのか、エロイーズだけでなく観客の心も不安にさせる色使いです。
そして、エロイーズが恐怖に駆られて半狂乱になる後半では、エロイーズの衣装も黒色、メイクもカラーレスになり、風景も暗闇や雨を多用したり、グレーがかった色使いに変わります。
つまり、エロイーズとサンディの精神状況の変化が映像に反映されていて、エロイーズとサンディの感情が観客に伝染するようになっているのですね。エロイーズがサンディの記憶を追体験して疲弊して行く、というストーリーな訳ですが、同じく観客もエロイーズの感情を追体験している状況になるわけで、観終わった後は結構疲れましたね。これを狙っているのだとしたら、エドガー・ライト監督は相当計算して映像作りをする人なのでしょう。
エドガー・ライト監督の前作『ベイビードライバー』を観た時、この監督は音楽の使い方が上手いなと思いましたが、本作では音楽以上に色使いと映像作りが上手い監督だという印象を受けました。

あまりストーリーに触れていないレビューになってしまいましたが、ミステリーとしても、また、ホラーとしてもかなり面白い作品なので、気になっている方には是非鑑賞をお勧めします!