洋画好きのえび

ドライビング Miss デイジーの洋画好きのえびのレビュー・感想・評価

ドライビング Miss デイジー(1989年製作の映画)
4.3
偏屈な高齢のユダヤ系未亡人と初老の黒人運転手の心の交流を描いた心温まるコメディ。
仕事で嫌なことがあり、昨日観たホビットの続きを観る元気がなかったのでこちらを観賞。やっぱりモーガン・フリーマンはいいなぁ…彼にしか醸し出せない唯一無二の雰囲気がありますよね。 そして、デイジーを演じたジェシカ・タンディの偏屈だけどどこか憎めない愛嬌のある演技も素晴らしい!

舞台は1948年のジョージア州アトランタ。元教師でユダヤ系の未亡人であるデイジー・ワサンは、出かけようとキャデラックを車庫から出そうとするが、ギヤ操作を誤り、キャデラックは隣家の生垣に突っ込んでしまう。デイジーを心配した息子のブーリーは、母親を心配して運転手を雇うことを提案するが、偏屈なデイジーは聞く耳を持たない。そこでブーリーは、デイジーに黙って初老の黒人男性ホークをデイジーの運転手として雇ってしまう。当初は頑なにホークが運転する車に乗ることを拒んでいたデイジーだったが、明るく真面目なホークの人柄を知るにつれ、ホークを信頼していく。そして、何処へ行くにもホークの運転で出かけるようになるのだった…

ストーリーに大きな盛り上がりは無いけれども、ちょっとしたシーンからデイジーとホークの距離が縮んで行く様子が伝わってきて、それがとても微笑ましい。また、ちょいちょい挟まれるコメディシーンも、大げさな笑いではなく、登場人物たちの台詞の言い方や表情でクスッと笑ってしまうようなさり気ない笑いで話の流れを邪魔しない。それがとても良い。
時間が流れるにつれ、当初はデイジーがホークに禁止していたことを、当たり前のようにホークがデイジーの許可なくするようになっていたり、取りつく島もなく却下していたホークの提案にデイジーがのっていたりと、出会った時の二人と親しくなった二人の対比のシーンが繰り返し出てきて、その対比がより二人の親密さとデイジーの変化を観客に伝えてくれる。

また、ただのハートフルコメディだけでは終わらず、ユダヤ人や黒人に対する差別や、無意識の差別、当時の黒人が置かれていた過酷な状況、KKKによるテロ等、当時の差別問題にもしっかりと触れられている。殊更に差別を強調した描き方はされておらず、日常生活の中に、また、デイジーが無意識に口にする言葉の中にさらりとそうした差別の実態が描かれていて、それが逆に差別の深刻さを表しているように思えた。特に、デイジーが口にした言葉に傷ついた表情を見せるホークの様子がとても悲しく、心にくる。こんなに親しい間柄なのに、デイジーはホークが受けてきた差別や置かれている状況を正確には理解できていない。だから、ホークにとっては無神経で、傷つく言葉をデイジーは悪気なく口にしてしまう。今起きているBLM運動の根底にも、そんな要素があるのかもしれない。

ラストの年老いて記憶がおぼつかなくなったデイジーにホークとブーリーが会いに行くシーンは個人的な理由でちょっと泣きそうになった。毎回ではなくても、会えば思い出してくれる、側にいてほしいと言ってくれる、顔を見て笑ってくれる…二人の培ってきた絆を描いた美しいラストだった。