ひでやん

レイジング・ブルのひでやんのレビュー・感想・評価

レイジング・ブル(1980年製作の映画)
4.2
沈まない闘争心と捨て切れない猜疑心。

なんて美しいオープニングなんだろう。シャドーで揺らす身体は闘牛のようであり、精神を研ぎ澄ました男の孤独が胸を鷲掴み。この映像は痺れる。

不可解な判定に怒りを露わにするも、決して八百長試合はしなかったボクサー。しかしタイトルマッチまでの道のりは遠く、負け方が下手くそな敗者となる。弱すぎる勝者と倒れない敗者、金が作り上げたドラマは滑稽で哀れだ。

ボクシングの試合は起と承を端折って、転と結のハイライトを見せる演出だったが、飛び散る汗と血、猛ラッシュの連打、拳をぶつけ合う迫力がひしひしと伝わってきた。挑戦者から王者になっても闘いは終わらず、今度はその座を守る防衛戦が始まる。どこまでいっても孤独な闘いだ。

そして、ボクサーを支える妻は禁欲生活を理解しなければならない。減量、セックスレス、殴られ血を流し瞼が腫れても闘う姿、それらを受けとめる覚悟が必要でボクサーの妻もつらい。禁欲によって男が抱くものは嫉妬心と猜疑心で、トレーニング風景をごっそり省いてそれを描き出すのが他のボクシング映画とは違う所だった。

ジェイクの人生は嫉妬で転落するが、なんか妙に共感してしまう。どうしようもなく頑固で、みっともない恥かいて、理解を求めるくせに自分が見えず自滅する。まったく男ってのは…と自分と重なる部分があって心が痛かった。

現役の頃と引退後の体つきがまるで違うデ・ニーロの役作りには脱帽。
ひでやん

ひでやん