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愛の記念にのakrutmのレビュー・感想・評価

愛の記念に(1983年製作の映画)
3.9
16歳の少女シュザンヌの自由奔放な恋愛や家族関係を通じて、愛の尊さや困難さを描いた、モーリス・ピアラ監督の恋愛ドラマ映画。アルレット・ラングマンの脚本『Les filles du faubourg』を原作として、監督が設定を現代にしたり、恋愛以外のトピックを排除したりと翻案をしている。特に、映画の最後のほうディナー・シーンは原作になく、しかも完全に即興での演技だそうである。

モーリス・ピアラ監督とは相性が悪くて、今まで見たいくつかの作品は面白いと思えなかったのだが、本作は素直に良いと言える作品だった。それは主人公シュザンヌ役のサンドリーヌ・ボネールの演技に依るところが大きい。役と同じ年齢の彼女は、本作で映画デビュー(それ以前に『ラ・ブーム』などにエキストラとしては出ているらしい)にも関わらず、もう女優として十分な実績があるかのような安定した演技を見せている。

思春期の頃は、男女ともに、「性」に関する関心と「愛」を分けて考えることが難しいので、性的快楽で精神的快楽が得られないと刹那的になっていく場合もあるだろう。しかも、自分の両親のように、大人になっても「愛」が不毛のように見えてしまうと、なおさらである。そんな思春期特有の繊細で、でもどこか厭世的な心情を見事に表現している。

個人的には、サンドリーヌ・ボネールのいかつい顔があまり好きになれなくて、でもそれが『冬の旅』では上手く活かされているわけだが、本作では映画が進むにつれてとても魅力的に見えてきた。特に父親(を演じるモーリス・ピアラ)とシュザンヌが二人だけで会話する(かたえくぼの話が出てくる)シーンがあるが、このときに見せる彼女の笑顔がとても素敵だった。実は、このシーンも原作にはなく、モーリス・ピアラ監督が挿入した即興シーンである。即興的な演技を取り入れることで、新人のサンドリーヌ・ボネールの魅力を上手く引き出していると言えよう。
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