MASH

イレイザーヘッドのMASHのレビュー・感想・評価

イレイザーヘッド(1976年製作の映画)
4.5
控えめに言って何が何だかまったく分からない映画。全編を通して主人公の悪夢的な幻覚のようなものが主観的に現実として描かれている。悪夢的というよりは悪夢そのもの。それもそのはず。この映画はデヴィッド・リンチ自身が見た悪夢を映像化したものなのだ。この映画にはプロデューサーがおらず、製作・監督・脚本の全てを彼がやっている。そのため、この映画には客観性というものが存在しない。存在しないというか意図的に排除している。実際に彼自身が感じた「父親になることの恐怖」というものが悪夢に変わり、さらにそれが映画という媒体にそのまま映し出されている。

人の不快感を煽るような雑音が止まることなく流れ続け、その中で奇妙で気味の悪いよく分からないシーンが延々と続く。正直観ていて気分が悪くなってくるような映画だが、不思議と観続けてしまう。それはこの映画が主人公の主観のみで構成されているからだ。常に流れている雑音や彼の見る気味の悪い幻覚(?)というのは、観客の不安を煽るために作ったものではなく、あくまで主人公が感じる強烈な不安感というものを一切の客観性を通さずに映し出したものなのだ。それ故にこの不安感や不快感は感覚的には非常にリアルなものになっている。これを観て狂っていると思うのは当たり前だと思うが、この映画はある意味でどの映画よりもリアルなのだ。

この主人公が感じる不安感は「父親になった」ということから生じているものではある。この状況自体は誰にでも当てはまるものではないが、描かれている心の不安定さというものは程度の差はあれど多くの人が持ち合わせているものだ。この映画が完全に主観的な映画であるにも関わらずいまだに多くの人々を引きつけているのは、そういった単純な言葉では表せない不安感を抱えている人が多いことの証拠なのではないだろうか。

2回目 4.5点
(2023年7月16日 U-NEXT)

1回目 4.5点
(2018年10月5日 Blu-ray)
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