あい

シンドラーのリストのあいのレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.4
最初にこの映画を観ようと思ったきっかけから。
先日観た大好きな映画「ジョジョラビット」について、現代的な価値観のおしつけだとか、ホロコーストの悲惨さを矮小化していると批判されているのを見て。
自分自身は歴史として学んでいるし、幼い頃から「アンネの日記」「アドルフに告ぐ」などでその悲惨さには触れていたものの、、
いま一度、事実をずっしりと伝えるものに触れなければいけないのではと思って、観てみた次第。

想像以上に重厚だったし、3時間超でほぼ白黒。
映画というよりはドキュメンタリーを観ている感覚に近く、エンターテイメントとして作られた映画ではないようにも感じるので、、
(ユダヤ系の血を引いているというスピルバーグ監督の使命感を強く感じる)
点数をつけるのもおこがましいような気がしつつ…
鑑賞後にシンドラーの経歴なども調べたら、もちろん美化されている部分もあるものの、かなり史実に基づいて作られているようで、観てよかったなぁ、と思った。

感じたことをいくつか。
①シンドラーが根っからの聖人君子でないのは意外だけど、そこがいい
②金や権力はもちろん、柔軟な人たらしだからこそ出来たこと
③当たり前のことが当たり前にできる幸せ
④人間の悪い面を引き出してしまう戦争
⑤彼が救ったものの大きさ

①シンドラーが根っからの聖人君子でないのは意外だけど、そこがいい:
シンドラーってもっと聖人君子を想像していたけど、最初はビジネスマンとして合理的に、安価な労働力としてユダヤ人を雇っていただけで。
人助けからスタートした訳でもないし、何なら当初は人並みに差別意識もありプライドも高そうで、ちょっと嫌な奴っぽく描かれてたりもする。
それが人からの感謝だったり、あまりにもむごい惨状を目の当たりにすることで変わっていき、1人でも多くの人を救いたいという使命感に燃えるように変わっていく。
(この心境の変化はもうちょっと丁寧に描いてほしかった気もするけど)
観る人の立場としては、出来過ぎた人ではないからこそ親しみを持てる節もあり、彼が変わっていく様に人間らしさと、救いも感じられてとても良かった。

②金や権力はもちろん、柔軟な人たらしだからこそ出来たこと:
「シンドラーのリスト」について、ざっくり存在は知っていたけど、詳しいことは知らず。
イメージでは、もっとコソコソと活動してたのかなと思っていて。
だから収容所長などナチス幹部と親交があり、頻繁な賄賂はありながらも対等に対話していたりと、あまりにも正攻法でびっくり。
でもだからこそ、あれだけ多くの人を救えたのだと思った。
差別反対、って主張を真っ向から掲げたらゲシュタポにリンチされ殺されて終わりだっただろうこの時代。
人の心に入り込み、嫌われないギリギリの所できちんと主張してやりたいことを実現させていく様は、現代サラリーマンにも勉強になるものがある気がする。

③当たり前のことが当たり前にできる幸せ:
幼い頃から戦争映画に触れることも多い日本人なら、戦争映画の感想で一度は目にするものだと思うし、はいはいっていう耳タコ感想だとは思うんだけど。
やっぱり感じました。
ひとりひとりが人間の尊厳を持って生きられることの尊さ。
誰だって人のいのちは大切なもの、という価値観が社会の共通認識である国、時代に生まれた幸せ・・・

本当に息をするように暴力振るわれ、人が殺される。理由なんて何もない。
これは確かにジョジョラビットにはない描かれ方で、これが現実にあったことも私たちは受け止めなきゃいけない。

個人的に衝撃的だったのは、女性の被収容者たちが針で皮膚を切って「血チーク」をするシーン。
全裸で走らされ、体力がない=労働力として価値がないと判断された人から命を奪われるから、「少しでも血色よく健康的に見せる」ためにしていたこと。
現代を生きる私たちもチークをする訳だけど、それはより美しくありたい、という願望によるもので、それがなければ命を落とすなんてありえない訳で。
なんて恐ろしいのかと。全裸で走らされて仕分けされるというのは過去にも何かで見て、本当にあったんだ…と改めて思ったけど、映像で見ると本当に異常。
女性の描写はシャワー室のシーンといい、本当にしんどかった・・・・

④人間の悪い面を引き出してしまう戦争:
これは本当に、、「あいつらも戦争がなければ普通の男」という台詞の通り、ひとつの真理だろうなと思う。
誰だって加虐性とか暴力性、破壊衝動みたいなものを少なからず持っているけど、それに正しい理由付けをして暴発させてしまうのが戦争なのだと思う。
正義とか倫理とかが崩壊して、人を属性だけで乱暴に扱ったりして良いものと勘違いさせてしまう異常事態。
ましてや第二次大戦のヒトラー政権下でのドイツとなればなおさら。
「わかりやすい敵」を作ることで国民を団結させる狙いもあったんだろう。


⑤彼が救ったものの大きさ:
最後の墓前のシーンで、彼が救った1,100人の人々の子孫(シンドラーのユダヤ人)はもっともっと多くなっている、とテロップが出る。
劇中の台詞にもあったように、ここから次の世代が育っていく。
人の価値は、周りの人に何をできたか、次の時代に何を残せるかで決まるのかもしれない、と思った。
こんな風に生きられるだろうか。。ここまで大きいことはできなくても、どんな時代にあってもものの本質を見つめ、何が正しいかを見誤らないようにしたい。


人間が人間に対して、こんなに残虐な仕打ちをしたのだということは絶対に忘れちゃいけない。
そしてその混沌の中においても、人として正しいことをできたシンドラーのことを、忘れずにいたいと思う。
あい

あい