田島史也

羊たちの沈黙の田島史也のレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
2.9
現代的サスペンスの教科書。

抽象的で鋭利なレクターの台詞は、クラリスの心理を見透かし、えぐりとるよう。いわゆる戦後のジャック・ラカンの精神分析を筆頭とした学説の中で生じたサイコパシックな描写の成熟を見てとることが出来る。

これが1990年の作品であることが重要なのだろうと思う。本作で用いられた様々な技法が、現在においては普通に使われるものであり、特別な意識を向けることは無かった。しかし、よくよく考えてみれば、カニバリズム殺人鬼に協力を仰ぎ、皮膚剥がし殺人鬼の捜査を行うというストーリー展開は数奇なものであり、そこに徹底的な心理描写を導入したことは、スタジオシステムに支えられたメロドラマ的ハリウッド映画からの完全なる脱却と、新しい映画の創出を宣言するようであった。

数々の賞を総なめにした理由はこんなところだろうか。現在の映画を現在の視座で享受する私にとっては、正直それほどスリリングなものではなかった。あと、血の描写が微妙だった。あまりグロさを感じない。総じて抽象的で分かりにくく感情を揺さぶられることはなく、画的な面白さもあまり感じられなかった。

追記)解説を読んだけど、やっぱり納得感は無い。事件の被害者を羊と重ね合わせるのは少し無理やり過ぎない?事件を解決すればクラリスのトラウマが解決されるというのもどうなのか。メタファーって、気付かれて納得されないと意味が無いからね。やはりわかりやすさと妥当性に欠けているような。


映像0.7,音声0.6,ストーリー0.6,俳優0.8,その他0.2
田島史也

田島史也