こたつむり

エネミー・オブ・アメリカのこたつむりのレビュー・感想・評価

エネミー・オブ・アメリカ(1998年製作の映画)
3.3
★ 国家の敵のだいたいは自国民です。

JR埼京線の車内に監視カメラが付きました。
主たる目的は頻発する痴漢防止とのこと。それだけを聞いたら「痴漢抑止対策になるなら仕方がない」なんて思いますが…果たして本作を観た後も同じ考えを持てるでしょうか…?

というのも、本作は監視社会への警告。
住宅街やコンビニ、高速道路、そして人工衛星…至るところで“見られている”現代に一石を投じる物語なのです。

しかし、本作は20世紀の作品。
まだカメラ付き携帯電話は普及していませんから、固定カメラ程度で済みました。でも、今は一億総監視時代。何かあれば誰も彼もがスマホで撮る…とても窮屈な社会。パンツ一丁で行水…なんて今は昔の物語なのです。

だから、本作は笑い事ではありません。
普段は影が薄い存在だとしても、何かあれば監視される…とても怖い話なのです。しかも、主人公を追い詰めていくのは国家機関。民意を代弁する組織の前に一市民なんて小さなアリと同じ。

そんなうすら寒い物語を仕上げたのは。
娯楽映画を手掛けたら超一流のトニー・スコット監督。派手なアクションを物語に馴染ませる手腕は相変わらずでした。テンポよく物語が進むので澱まないのです。

ただ、物足りなさを感じたのも事実。
主人公の輪郭が明確ではないので、演じるウィル・スミスの存在感だけに頼っている印象が強いのです。しかも、彼のパブリックイメージと本作のテーマが噛み合っていませんからね。たぶん、知名度先行の配役だったのでしょう。

まあ、そんなわけで。
スリラー要素を含みますが、アクション映画として割り切ったほうが良い作品。そもそもジェリー・ブラッカイマーがプロデューサーですからね。深くまで考えない方が吉です。

あと、ブレイク前のジャック・ブラックが出演していたり、いぶし銀のガブリエル・バーンが端役で出ていたり…と配役は良かったと思います。可愛らしいネコも堪能できましたし。

最後に余談として。
鑑賞中はどうしても『ゴールデン・スランバー』が頭を過って仕方がありませんでした。どちらも国家権力に翻弄される物語ですからね。本作も堺雅人さんのような主人公だったら…どうだったのかなあ。
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