ねむ

ギャング・オブ・ニューヨークのねむのレビュー・感想・評価

4.3
先月同監督の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を観た流れで、配信で鑑賞。これは20代のディカプリオを主人公にしたもの。

3時間近い長編だったけどめちゃくちゃ面白い。
19世紀半ば、南北戦争(原語ではCivil Warなので、文字通りに国民同士が戦う「内戦」)に揺れるアメリカ東部。南北戦争自体の一つの原因が人種にからむ問題(奴隷制度の是非)だけれども、この頃ちょうどアイルランドでは有名な大飢饉が起こったためアメリカへの移民が激増しており、移民の入り口であるニューヨークでは、元からいたアングロサクソン系の白人(「ネイティブズ」と自称している)と、おもにアイルランド移民との間で民族対立が激化している。
しょっぱな、ここは戦場かと思ってしまう集団間の壮大な殺し合い(武器を使ってるので実際に死ぬ)から始まる。「生みの苦しみ」と言うにも凄惨な、暴力また暴力の積み重ね。

既存住民と新規の移民というだけでなく、元の住民はプロテスタント、移民はカトリックという宗教的な相容れなさもある。冒頭に出てくる抗争で、アイルランド移民のリーダーが「神父」なのは象徴的。

…という大きな歴史的背景の中で、ニューヨークにかつてあったファイブポインツという貧民街を舞台にして、主人公の復讐譚が繰り広げられる。スコセッシ版「ワンスアポンアタイムインアメリカ」といった感じだが、単に題材がギャングの抗争というだけでなく、アメリカ生成の歴史の暗部を描いているから。そういう意味では、マイケル・チミノの「天国の門」を思い出したりもした。

主人公は架空の人物だそうで、「アムステルダム」という名前はかなり変わっているけど、ニューヨークが元々オランダ系の領土で、地名にもオランダ語が使われていたことの名残り?(※主人公はアイルランド系です)

父の復讐を心に秘め、誇り高く頭も切れて腕っぷしも強い、街一番の美女の心を射止める…という割とヒロイックな「かっこいい」主人公でもあり、こういうのはスコセッシ作品には珍しいかも。珍しいといえば、話の中にロマンスが入ってるのも結構珍しく感じた。

父の仇であるビルもキャラが濃い!残忍で凶暴な差別主義者でありながらも頭が良く、気に入った相手限定で情けをかける度量もある。主人公とビルの愛憎と復讐は劇中「シェイクスピア的」という表現もあるように、古典的だけどドラマとしてすごく強い。演じるのがディカプリオとあくの強いダニエル・デイ・ルイスなので、これまた絵面が強い強い。

19世紀のファイブポインツの街はセットを組んだそうで、貧民たちがひしめき合って暮らすオールドブルワリーを始め、「実際に街を作ってしまってる」というスケール感が大変に贅沢。
赤毛に緑や暖色系の色を合わせてアイルランド系と視覚的に見せたり、対立グループも暖色系と寒色系で色分けするなど、のちにハイローなどで生かされたのでは?と思うわかりやすさも良い。というか、衣装がもう男も女も全体にかわいくて配色もおしゃれ。

ディカプリオとデイ・ルイスの血まみれの決着に思いきり焦点を寄せておいて、最後はすべてが歴史の流れに飲み込まれて風化し、忘れられていくという無常感も◎。

2001年の製作で、今はほとんど見られなくなった形の歴史大作。そうそう、元になった「ニューヨーク徴兵暴動」事件は、実際には黒人市民への私刑的側面が大きかったらしく、その意味では今見ると白人同士の戦いにばかりフォーカスしすぎという批判はあるかもと思った。
スコセッシ作品にしては笑えるところも少なく、珍しいタイプかもしれない。
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