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スタア誕生のakrutmのレビュー・感想・評価

スタア誕生(1954年製作の映画)
4.3
1937年の映画『スタア誕生』を、ジョージ・キューカー監督がミュージカルとしてリメイクした作品。主役のスタアであるエスターを演じているのは、最近『ジュディ 虹の彼方に』でレネー・ゼルウィガーが演じて話題となった、ジュディ・ガーランド。

『スタア誕生』は本作の後に2回リメイクされている(1976年のバーバラ・ストライサンド版、2018年のレディー・ガガ版)が、個人的には3つのリメイク版のうちで本作が最も好きであるし、優れていると感じた。その大きな理由は、本作以外のリメイク版はどちらも、人物設定が映画界におけるスタア(=俳優)ではなく、歌手に変更されている点にある。歌手という設定が悪いわけではないが、映画俳優のほうがスタアとしての盛衰をダイナミックに描くことができる(歌手だと盛衰の表現がやや弱くならざるを得ない)ために、このストーリーが生きるのである。さらに1937年のオリジナル版に比べて、ミュージカルという味付けがされているために、歌って踊れるスタア女優という華々しさが強調されるとともに、元スタア男優(エスターをスタアにして結婚するが、自分自身は落ちぶれていく)との対比が際立つのである。

ふんだんに盛り込まれているミュージカルシーンでのジュディ・ガーランドは素晴らしかったが、薬物中毒や精神的抑うつのせいだろうか、表情や体型がスタアに似つかわしくないように見えたのは残念であった。もっと美しい頃のジュディ・ガーランドだったら良かったのに。一方のジェームズ・メイソンは、落ちぶれ方がやや甘い感じがしたが、元スタア俳優という雰囲気はよく伝わってきたので◎。

元々、ジョージ・キューカーは1937年版『スタア誕生』の監督を依頼されていたが、このときは1932年の自作『栄光のハリウッド』と内容が類似していたため、依頼を断っている。その後、ミュージカルとしてのリメイク版として本作を再び依頼され、自身が初めて監督するテクニカラー映画かつミュージカル映画であることや、ジュディ・ガーランドと仕事ができるなどの理由から、監督を引き受けている。しかし、精神的に不安定なジュディ・ガーランドの度重なる撮影拒否やコンディション管理の失敗などで撮影は困難を極め、さらに製作会社のワーナー・ブラザースが独断で完成したフィルムを30分ほどカットして公開するなど、ジョージ・キューカー監督にとっては大きく悔やまれる作品だったようである。今回、私が鑑賞したのは、1983年にカットされた部分を復元したバージョンであるが、一部の映像は見つからなかった(サウンドトラックは存在した)ために、白黒の静止画が使われている。

なお、映画の中ではジュディ・ガーランド演じるヴィッキー・レスター(エスターの芸名)がアカデミー賞の主演女優賞を受賞するシーンがあるが、ジュディ・ガーランド自身も本作でアカデミー賞にノミネートされている。下馬評では彼女が受賞するだろうと予想されていたが、残念ながら受賞はならなかった。一説には、ジュディ・ガーランドの度重なる職場放棄のせいで撮影の遅延が生じ、製作コストが超過したことに激怒したワーナー・ブラザース側が受賞させないように手を回したとも言われている。
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