よしまる

アニー・ホールのよしまるのレビュー・感想・評価

アニー・ホール(1977年製作の映画)
4.2
 ウディアレンは全作ちゃんと観ておきたいなと思い立ったのは良いものの、未鑑賞のものから観ればいいのについまた「アニーホール」を観てしまった。
 良くも悪くも好きも嫌いも、ウディアレンはここから始まっていると思っていて、そのことを確認できたので観てよかった。

 ウディが演じる主人公は、NYに住む都会っ子で、インテリで自意識過剰、女性の理想像に厳しく、でも甘えたがりでSEX大好きな、悪く言えば典型的にうざい、よく言えばカワイイ男性、そしてユダヤ人。

 公私ともに恋愛相手となるダイアンキートンは良いとこのお嬢さんながら学は無く奔放で飾らないこれまた典型的な地方出身の女の子、SEXが嫌いではないけれどそれだけじゃ嫌、自分を縛り付けられると逃げる、そしてキリスト教信者。

 まあよくもこれだけ正反対を揃えたなと思う反面、これこそが男女が結ばれる所以であり、と同時に結ばれない原因だよなぁと思うことしきり。

 お互いに自分にない魅力を見つけて惹かれ合い、次第に依存してゆくプロセス、しかしお互いが自分というものをしっかりと確立し、自立できる者同士だからこそ永遠に一緒ではいられないというジレンマが丁寧に描かれていく。
 ボクは恋愛映画には(設定はどうあれ)人物の性格付けにおいてリアリティが必須と思っているので、本作はその点でスーパーリアル。それだけでかなり高得点だ。

 長回しを中心とした幾パターンものやり取り、皮肉やユーモアを込めた等身大の会話劇はどれも楽しいし観ていて飽きることがない。ポールサイモンやクリストファーウォーケンなんて脇役も良い。
 一瞬しか映らないのにジェフゴールドプラムが居たのは今回初めて気づいた、というか昔は知らなかっただけで、知ってたらすぐわかるw

 さて、そんなテンポの良さの中でいくつかクスリと笑っちゃう言い回しがあって、
「ケネディ暗殺が強迫観念になってセックスできない!ウォーレン委員会もグルだ!」とか「田舎は嫌いだ。マンソンファミリーに襲われる!」とか、ウディが好き放題に面倒くさいことを言う。

 挙げ句に「親が良いというものはたいてい悪い。太陽に牛乳に赤身肉に大学。」「君のおばあちゃんと違って、うちの婆さんはコサックに犯されるのに忙しくて。」とか、わ〜そこまで言っちゃう〜という面白さが、ユダヤ人差別を身近に感じてないボクからすると笑っていいんだかどうだかまあまあ困るw
 きっとアメリカの劇場ではドッカンドッカン大ウケしていることだろう。

 なので、コメディとしては日本人的にはそんなに笑えなくて当たり前なのだけれど、最初から最後まで喋りっぱなしな上に、過去と現実が交差したり、観客に話しかけたり、勝手に幽体離脱したり、さらにはシンプソンズみたいなアニメになっちゃったりと、あらゆるテクニックを駆使した(言い方を変えるとやりたい放題)映画としてのクオリティだけでお釣りがくる。

 リアリティと技法が高次元で組み合わさっているうえに、最後はちょっとほろ苦い(ウディアレンが作るお芝居のオチが泣ける〜)なんてほんと出来過ぎ。
 あらためて、やはり名作!