よしまる

フェイブルマンズのよしまるのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.2
友人とのオンライン上映会のお題に上がってきて、全然ノーマークだった作品。

なんかスピルバーグが自分を題材にしたような映画を撮ってるらしい程度の知識で観てみると、まるっきり自叙伝で驚いた。

ここまであからさまに自己をなぞらえて、しかも自分で映画を作った映画人も珍しい?
あとでwikiると、どうも両親が早く自伝を撮れと促していたらしい。映画を観て納得、同時に観た友人も漏らしていたけれど、なるほどこの親たちなら言いそうだ笑笑

幼少期の激突マイブームに始まり映像の魔力に取り憑かれていくさまは、かつてボクも8mmフィルムを趣味で撮っていたので郷愁をそそられてたまらんくてまずそこで完全に引き込まれた。

編集機で覗きながらコマをカットするシーンだけでも胸熱。
当時音声同録の磁気付きフィルムの場合に繋ぎ目のテープのせいで一瞬音が途切れるのがすっごく気になったり(今はもうさすがに売ってないみたい)、母の裁縫道具から針や目打ちをくすねてフィルムに傷をつけて光学処理を気取ってみたり、いまはパソコンの前で何でも出来てしまうことを、努力と知恵でどうにかしていたアナログな時代。楽しかったなぁ。

彼の作品、例えばE.T.のエリオットや、A.I.のデビッドといった少年たちがいかに彼の生き写し、自己投影の賜物であったかがよくわかる。なんなら彼のなし得なかったこと、心にわだかまっていたことをすべてこれまで自身の映画でやり遂げてきたとさえ思えた。

その一方で数々の監督作を通じて息子と父との確執は再三語られてきたのに、息子と母の関係性については濁していたりスルーしていることも多く、なるほどこれは普通では語れない強度のトラウマ、複雑な心境を抱え込んで来たのだなぁと、そんなふうに納得した。

さらに特筆すべきは、舞台がハイスクールへ移り、青春ど真ん中な青いティーンネイジャーを描いてくれたこと。
これまで少年の苦悩や青年の挫折、父親の葛藤などは幾度となく描写してきたスピルバーグだけれど、最近レディプレイヤー1やウエストサイドストーリーでようやく若者に視点を向けはじめたばかり。

しかし満を持して学園ものを真正面からとはブラボーに過ぎる。いや、まるでこのために温め続けたのかと勘ぐってしまうほどの完成度で、しかしこれまでどうしても描けなかった理由もまた垣間見えた気がした。
ユダヤとしての被差別、球技へのコンプレックス(ああ自分も運動音痴なので分かりみが凄いw)、カルト女子の尻に敷かれてろくでもない学園生活、いくら名声を手にしてもあの時代を消化するにはこれだけの月日が必要だったのではあるまいか。

映画監督なのだから当たり前なのだけれど、劇中映画のクオリティの凄さよりも、カメラの中の出来事と現実の出来事のリンク、それを巧みに切り替える編集の妙、カメラは分かりやすく回り、役者は丁寧に演じている、ああ、なんて素晴らしい職人なのだろうとジンジンしてしまう。

まとめは以下ネタバレにて⚠️














これまでスピルバーグ作品はほぼ網羅しているけれど、ただひたすら映画を観ているばかりで伝記のようなものに触れたことはなく、ジョン・フォードに会ってあんなふうに直接手ほどきを受けていたとは知らなかった。
フォードを演じたデビットリンチにもアッパレを献上したい。

手ほどき、というほどのことでもないのかもしれない。しかしながら水平線のくだりを本作のクライマックスのように描いているところを見ると、彼にとって映画監督として大成するまでにおいて、よほど重要なトピックとなったアドバイスなのだろう。

確かにフォード作品と言えば遥かな大平原ではなく、峡谷や砦のイメージ。そうした中でこそドラマが生まれているという意味ではなるほどしかない。

スピルバーグ作品にも継承されているのか見返したくなるところも、監督ズルい!ってなる。

だってこの映画観たら誰だってまず未見のスピルバーグ作品を見漁るでしょうに!