ベイビー

東京ゴッドファーザーズのベイビーのネタバレレビュー・内容・結末

東京ゴッドファーザーズ(2003年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

今監督らしい、物語の層(テーマ)が幾重にも重なった見応えのある映画でした。

メインテーマは「奇跡」。

三人の浮浪者がクリスマスの日に、捨てられた赤ん坊「キヨコ(エンジェル)」を見つけたことから始まる、一週間の奇跡を描いています。小さな偶然が重なり、やがて大きな奇跡に繋がり、主人公たちの心の成長にも繋がる。本当に今監督らしい、話の展開が読めない素晴らしい映画です。

そして、この映画の裏テーマは「本物・本当って何?」という、今監督からの問いかけだと私は感じました。

ハナは本当の女性ではなく、ギンが話す過去も嘘ばかりで、ミユキは家出をしているだけで、本物の浮浪者ではありません。そんな偽物同士の三人がキヨコの親探しを通し、小さな偶然に遭遇し、過去の自分(浮浪者になるきっかけとなった自分)を知る人から許されながら「本物の絆」「本当の家族」「本当に帰る場所」を見つけていきます。

最後に宝くじが当たっている事実がありますが、三人がそれを見つけたときどの様に使うのか、そして浮浪者生活を終え誰と暮らすのか、この物語の中では語られておりません。
私は、今監督がこの本編を通して「さて、この三人はこのあとどの様になったでしょう?」と、観客に問い掛けているような気がするのです。

今監督の問い掛けはもう一つあります。それは、「何故この作品を実写でなく、アニメで作ったのでしょう?」ということです。
この作品の内容はわざわざアニメで表現するものではありません。もちろん今監督はアニメ映画監督ですから、アニメとして作品を仕上げることは当然ですが、それならそれで、もっとアニメに相応しい題材があったはずです。
きっとそれは愚問で、先のような質問を今監督に投げかけたところで、きっと「アニメで何故悪い?」と答えが返って来るでしょう。「実写が本物で、アニメが偽物だと誰が決めた」とも。

この作品の街並みの描写は精密で、行き交う人やビルの複雑な配管に至るまで嘘はありません。ワンシーン毎に画面から生活感が溢れ、人や街並みが全て本物となって息づいています。それが今監督のこだわりで、革新的な表現になっているのです。

この映画の面白さの理由は、何がリアルで何が虚像なのか。何が本物で何が偽物なのかと、美しく圧倒的な作画の向こうから、今監督が問い掛けているからではないでしょうか。
そして、そのハッキリと区別できない本物と偽物のグラデーションの描き方こそが、今監督が作り出す作品の真骨頂だと私は思います。
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