いの

クローズ・アップのいののレビュー・感想・評価

クローズ・アップ(1990年製作の映画)
4.5
オトナになってもごっこ遊びはやめられない。だって楽しいんだもの。心底苦しい生活を、その時だけは忘れられるんだもの。なにものでもない自分のことは誰も見向きはしてくれないけど、なりすまして監督名を語ったら尊敬の眼差しで接してもらえるんだもの。だって自分は誰よりもマフマルバフ監督のことを理解している。監督が映画で描く“痛み”は自分のコトだとしか思えない。
でも。子どもなら微笑ましいごっこ遊びをオトナがやることの代償は大きい。


(何人もの登場人物が本人を演じる、再現映像)+(裁判などの実録映像)。憧れの監督になりすまして、監督を演じたことで生じた事件。裁判でもカメラは止まらない。クローズアップされた被告人、語ることはホントなの?ウソなの?願望なの?思い込みなの?自己陶酔?
カメラを撮る側の横に座っているつもりのわたしは、偉そうにジャッジしようとする。彼よりも少し偉そうな立ち位置でわたしは彼をみつめる。でも、映画を愛し映画が描く「痛み」に心を寄せてきた被告人(ホセイン・サブジアン)の気持ちもわたしなりによくわかるし、映画監督だと信じてもらえたことがうれしいこともわかる。虚栄心も、みせたいように自分を見せることも、ちょっと丁重に扱ってもらうとドヤになることも、わたしのなかにある。浅慮も滑稽さも哀しみも、わたしのなかにあるものだ。


最後の抱擁、涙、
演技のその先にある、演技をこえた向こう側


このフィルムは時間が経っても心の中に生き続けるような気がする。そして評価も少しずつゆっくりと変化していくのかもしれない。


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*事件の加害者も被害者も、報道した記者も、ジャッジした裁判官も、ご本人が再現して演じている。なりすまされた監督までもが登場する。そこに、実際の裁判時の実録映像が混じる。
キアロスタミは、この映画を撮ることに本当に苦労したらしい(その結果、つかんだことも相当大きかったらしい)


*ディスクに同封されてたリーフレットもすんごく興味深い
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