砂場

宮本武蔵の砂場のレビュー・感想・評価

宮本武蔵(1961年製作の映画)
4.4
一般論として監督の実体験がどれほど作品に影響するのかわからないけど、内田吐夢の映画級の波乱万丈の生き様を考えると間違いなくその作品には多大な影響を与えていると思わざるを得ない。
戦前の左翼映画時代、戦中に満洲映画社に移り敗戦。甘粕正彦の自決現場に立ち会っている。中国での7年の勾留生活ののちにやっと1954年に帰国。
その帰国からわずか数年後1961年の作品が本作「宮本武蔵」第一部だ。

武蔵たけぞう(中村錦之助)は、幼馴染又八と共に関ヶ原の西軍に参加し功をなそうとするも戦に負ける。瀕死の又八と共に女に世話になる。又八は故郷に許嫁お通(入江若葉)を残していたが、女と失踪してしまう。
武蔵一人故郷に帰るが、敗残兵である上又八をたぶらかしたとして追われる身に。追手を殺しながら逃げる野獣のような武蔵に対し、沢庵(三国連太郎)は人の心を取り戻すように諭す。
武蔵は沢庵によって廃墟となっている武蔵の先祖の赤松城に幽閉される。
そこには死んでいった武士の魂が成仏できずに漂っているのであった。
沢庵とお通は武蔵の帰りを待つ

中村錦之助の熱演により武蔵の野獣ぷりが素晴らしい、一方で三国演じる沢庵の全てを見通したような知性と賢者としての存在感は武蔵をも圧倒する。スターウォーズでいうとルークが武蔵で、オビワン&ヨーダが沢庵のようなポジションであろう。
野生児がその本来の天才性を徐々に開花させる物語は日本人が好きなのであろうか、宮本武蔵、あしたのジョー、ガラスの仮面なども同型の物語だ。

沢庵が命の大切さ、あるいは流された先祖の血について武蔵に諭すとき、その言葉の重みはただならぬものがある。
それは内田吐夢自身がついこの間まで目の当たりにしていた人の死の記憶が言わせているからだろう。武蔵の暴力性と沢庵の倫理は単なる概念の遊戯ではなく内田吐夢自身がもろに体験してきたことそのまんまなのだと思う。
監督や役者の実体験が全てではないと思うが、この時代の人々の生と死に対するリアル感は現代人には持ち得ないものだ。
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