よしまる

アラバマ物語のよしまるのレビュー・感想・評価

アラバマ物語(1962年製作の映画)
4.3
 名作初鑑賞。なかなか手の出ないタイトル、ロバートマリガンという監督も未見。そんな中、友人とのオンライン鑑賞会のお題に挙げてみた。

 女性のモノローグに始まり、大切にしまわれた古い小箱の中には木製の人形や懐中時計など、懐かしい香りのするアイテムが入っている。
 そしてクレジットを見てびっくりプロデュースがアランJパクラだった。ボクが好きな監督5本指に入る彼が製作に携わってると知り俄然、前のめりで鑑賞笑

 弁護士である父親のグレゴリーペックと、幼い兄妹と、都会からやってきた男の子。どこにでもあるアメリカ南部の田舎町で、のんびりとした景色と土着的な人々に囲まれて、4人の交流が描かれるだけでなかなか話が進まない。バングルスの「Walk Like an Egyptian」(ジョジョのed)の元ネタがこんなとこにあったとは!

 けれども、こうした日常の描写が後からジワリジワリと効いてくる。

 タイトルともなっているモッキンバードは、マネシツグミ、モノマネ鳥。
 「人に危害を加えない、ただモノマネをしてさえずっているだけの鳥を殺してはいけないよ」と諭す父。

 その一方で、表通りに出てきた野良犬を「狂犬だ、危ない」としてライフルで撃ち殺す。そんな父を尊敬と畏怖との入り混じった複雑な表情で見つめる息子。この子役たちの演技がめちゃくちゃ絶品。

 しかしそのシーンがどういうことか、一切説明はされない。この辺りが昔の映画の良いところで、こういう描写が喉に刺さった魚の小骨のように、後からジワっと思い出される。

 このあと物語は、近所に住む知的障害者、あるいは殺人を犯したとされる黒人青年という、この時代ならではの、それでいて現在にも変わらず通ずる弱い者、虐げられし者にフォーカスしていくのだけれど、これがすべて子供の視点で描かれているのが素晴らしい。

 前半の子供たちの経験してきた目線がわかるからこそ、後半、そのまま観客も同じ視点で事件と対峙せざるを得ない。
 いったい全体、お父さんは何をやっているのか、大人たちは何を争っているのか、そして、正義とは何なのか…?

 ネタバレになるので詳しく書けないけれど、途中いくつもの衝撃や苛立ち、あるいは緊張感を感じながら、最後には薄ら寒い気持ちで結末を迎える。

 法の下にくだされた結論が正義と言えないのならば、超法規的にくだされた鉄槌は正義といってよいのか?
 子供たちの純粋な視点に立つからこそ、本当の正しさ、良い行いが何かという答えが、頭蓋を掴まれて振り回されたかのようにグラグラと揺らぐ。

 全編に流れるノスタルジックな雰囲気も、音楽も良かった。答えを明示して説教するようなことはなく、こんなふうに深く考えさせてくれる映画が好きだし、友人たちと感想を交わせたのもよかった。皆さんありがとう。

 以下トリビア

 法廷で6分以上に渡りワンカットで熱弁を奮ったグレゴリーペック。彼の葬儀では、容疑者の黒人役ブロックピーターズが哀悼の意を表し賛辞を述べたらしい。泣ける。