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ハウルの動く城のKKMXのレビュー・感想・評価

ハウルの動く城(2004年製作の映画)
3.7
 かなり複雑な話で、正直あんまり咀嚼できなかったです。内容がかなりゴチャついており、詰め込まれたものが拡散している印象も受けました。
 そのような中でも鑑賞後にあれこれ考えることができたため、わからないながらもそこそこ楽しめました。


 本作はハヤオ初のラブストーリーとのこと。中心のテーマは恋愛関係を生きることによる相互的な成長とコンプレックスの克服だと思います。
 とはいえ、個人的にはそっちのテーマにはさほど心を動かされず、どちらかと言うと主人公ソフィーのキャラクターと呪いについて興味を持ちました。

 呪いというのは言ってしまえば不条理にかけられる災厄です。しかし、この世に生きる以上、不条理の災厄から逃れることは難しいです。呪いに対してどう向かい合い、どう生きるかが人にとって大事なテーマなのだと感じました。そういえば『もののけ姫』のアシタカも呪いを受け、その呪いに対して真っ直ぐに向かい合って生き抜くことで、アシタカは自分自身に成っていった印象を受けました。

 本作の主役・ソフィーはイケメン魔法使い・ハウルと交流したことで、敵対する荒野の魔女から老婆になる呪いをかけられます。
 ソフィーは元々、容姿に自信のない自虐的な女子でした。「どうせ私なんて…」が口癖のタイプです。そんなソフィーが老婆になる呪いを受けたことは、いわば心の状態とフィジカルをリンクさせる呪いと言えなくもないです。実際、気持ちが自分でなく外側に向くとソフィーの外見は少し若くなります。

 しかし、面白いことにソフィーは呪いを受けた後の方が呪いを受ける前よりも生き生きしておりました。呪い前のソフィーはウジウジしていて後ろ向きでしたが、呪われた後はなんだか主体的になり、全体的にポジティブになりました。「あーもうババアになっちゃった、もうダメだけどしょうがないからスカっと行こう!」みたいな、開き直りというか外見至上主義からの解放というか、そんなノリになったため、ソフィーはコンプレックスにあんまり振り回されなくなったようです。
 また、ソフィーの呪い受容もスムーズなんですよ。もっとメソメソしそうなのに「ババァになっちゃったんだから仕方がない、ハウルの所に行ってなんとかしてもらおう」とやたらと切り替えが早い。ソフィーめちゃくちゃポジティブです。

 一見、呪いというのはネガティヴで忌まわしいものです。しかし、呪いは硬直した現実に亀裂を入れ、新しい展開を導く可能性もあるんだな、と感じました。どう考えても、ソフィーは老婆になることがプラスになってますからね。アシタカの呪いはマジ気の毒で、その運命を生きざるを得ない厳しいモノでしたが(それを生き抜くからこそアシタカはジブリメンズキャラ中最高のカッコ良さを誇ると思っている)、ソフィーの場合は呪われてラッキーじゃん、くらいにしか思えない!


 本作の中心テーマは呪いでもなんでもなく、前述したように愛による成長だと思います。その描写もなかなか説得力がありました。愛=Givingをきちっと描いておりましたし。ソフィーもハウルも外見への囚われに振り回されて、意識を自分にしか向けられない人でした。しかし、ソフィーとハウルは割とスムーズに互いを思いやることができるようになり、ソフィーなんて後半は本体に戻る率がかなり上がってました。
 ハウルも案外平和なタイプで、ソフィーとの相性が良かったのかも。物語の前半で、ソフィーがハウルの城を掃除したため、ハウルが自分にかけていた金髪の魔法が解けて、黒髪になるシーンがありました。ハウルは外見命なのでめっちゃ凹みますが、ソフィーを攻撃しないんですよね。ヤバめの人ならばソフィーを殺す可能性もあったのに、凹むだけで終わるなんてハウルは穏やかな男ですよ。根が穏やかって生きる上ではいろいろ得だよなぁ、なんて根がパンクスな自分はハウルを羨ましく思いました。

 ただ、ハウルとソフィーの関係はコンプレックスを抱えた者同士の恋愛でありながら異様にスムーズで、互いを傷つけ合って罪悪感に苦しみ、自分と向かい合うみたいなパターンはあまり見られず、恋物語としてはイマイチでした。そういう関係性についての繊細な話を求めるならば濱口竜介を観ればいいだけのことなのですが、物足りなかったのは事実です。ハヤオは壮大なテーマを描くのはめちゃくちゃ得意ですが、繊細な関係性を描くのはそこまで達者じゃないのだな、と感じました。それぞれ得意分野がありますからねぇ。
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