ボブおじさん

続・夕陽のガンマン/地獄の決斗のボブおじさんのレビュー・感想・評価

4.3
クリント・イーストウッドとセルジオ・レオーネ監督そして音楽のモリコーネが3度目のタッグを組んだマカロニ・ウエスタンの最高傑作。20万ドルの大金を巡って3人の男たちが駆け引きを繰り広げる。

意外にもこの映画の主役はイーストウッドではない。原題は〝いい奴、悪い奴、汚い奴〟でイーストウッドが扮する〝いい奴〟ことブロンディーは善人とはほど遠い存在だ。

つまりこの映画に出てくる3人はいずれも悪党だ。リー・ヴァン・クリーフ演じる〝悪い奴〟ことエンジェル・アイズもイーライ・ウォラックが演じた〝汚い奴〟のトゥーコも根っこに差はない。

南北戦争末期の西部。コンビを組むガンマンのブロンディーとトゥーコは、お尋ね者のトゥーコをブロンディーが捕らえて賞金を受け取り、トゥーコが縛り首になる前にブロンディーが救出する、という賞金詐欺を繰り返していた。しかし、ブロンディーがトゥーコを裏切ったことから2人の仲は険悪となる。そんな中、砂漠で偶然通りかかった瀕死の南軍兵士から、ある墓地に隠したという20万ドルの金貨のありかを聞き出した2人は…。

この映画の実質的主役は、〝汚い奴〟を演じたイーライ・ウォラックだ。当初はチャールズ・ブロンソンにオファーをしたそうだが、前作に引き続きまたも断られてしまった。だが結果的には、格下の演技派ウォラックを起用したことがこの映画を歴史に残る名作にした。

ウォラックは、当然ながらイーストウッドやブロンソンのように客を呼べるスターではない。だがもしこの役をブロンソンが演じていたら、この映画はもっと乾いた感じのマッチョな映画になっていたのではないか。

ウォラックの小賢しいキャラクターとアクターズ・スタジオやブロードウェイで鍛えた抜群の演技力が、それまでのマカロニ・ウエスタンに欠けていた悲しみの中に潜むユーモアを加えてくれた。

背景に戦争という大義のもと多くの命が失われることの愚かさと虚しさを描きながらも話は複雑ではない。簡単に言えば3人の悪党が知恵と体力を振り絞って宝探しをする話。

この大筋にレオーネ独特の極端なクローズアップとロングショットが交差するカット割りの連続やモリコーネの叫びにも似た音楽そして〝世の中には2種類の人間がいる〟という有名な台詞が加わり3人の悪党が奇跡のアンサンブルを見せる。

そして名作映画に欠かせない印象的なラスト。〝メキシカン・スタンド・オフ〟による無言の4分間。3人の立ち位置や目の動きによる緊張感の演出は、タランティーノやジョン・ウーなど後に多くの映画でオマージュされた名シーンだが、今であれば間違いなく編集で短くされるであろう。

この映画の大成功によりレオーネは〝マカロニ・ウエスタンの父〟と呼ばその後いくつもの模造作品が世に出回ることになる。レオーネの幼馴染の盟友モリコーネは、映画の世界感を完璧に作り上げる仕事振りが絶賛され本人が映画化されるほどの巨匠となった。

「荒野の七人」での悪役はあるものの、当時まだ有名ではなかったイーライ・ウォラックはこの映画での演技が認められて、以降数多くの名作で印象的な役を演じた。

そしてイーストウッドは、〝ドル箱三部作〟を名刺がわりにハリウッドに凱旋するとあの無愛想な含み笑いで、以後50年間に渡り群雄割拠のハリウッド映画界の頂点に君臨し続けるのだ。