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バレンチノ/ヴァレンティノのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

Brad SteigerとChaw Mankの"Valentino, an intimate expose of the Sheik"に基づく。

31歳で夭逝したハリウッドスターの伝記映画。ルドルフ・ヌレエフがヴァレンティノを演じる。エキゾティックな魅力があったヴァレンティノとは異なり、ヌレエフはワイルドながら白人然とした佇まいなので大丈夫かと思ったが杞憂であった。ヌレエフは英語のネイティブスピーカーではないのが「ハリウッドの異人」感が出ていい。ちょっとキリアン・マーフィーに似ている。バレエ・ダンサーだけあって動きはいちいち決まっているが、台詞は棒読みなのが、サイレント映画時代のスターという感じも醸し出している。ちなみにヌレエフはかなりのだみ声である。

コスチューム・デザインはシャーリー・ラッセル(ケン・ラッセルの元妻)。彼女の時代考証が素晴らしいせいか、衣装とメイクのすべてが真正さに満ちている(特にフラッパーガールの表象)。

オープニングで流れる"There Is No Star in Heaven Tonight"の中に"Valentino, goodbye"という歌詞があった。亡くなったときに作られた曲か。

彼の葬式に人が押し寄せる場面から始まる。記者が葬式に訪れる女性たちにインタビューする形で、女性との関係性を軸に、ヴァレンティノの短い人生を振り返る。

序盤、ヴァーツラフ・ニジンスキーとヴァレンティノがタンゴを踊っているうちに、音楽が調子外れになって止まり、いつの間にかニジンスキーだけバレエを踊り始めるダンスフロアのシーンが素晴らしい(ヴァレンティノはタンゴの名手だったらしい)。

のちに男同士で踊っていたことを"pansy"と罵られる。女性マネージャーのもと、富裕層の女性相手に男娼っぽい仕事をしていたことが明らかになる(特典映像によると、初期の映画でもジゴロを演じていたらしい)。

男性記者が、"ルディ"と関係のあった女性たちにインタビューする。

酒場のダンスフロアでベロベロに酔ったパートナーの踊りを、来店していた豚みたいなハリウッドプロデューサーが囃し立てる。ヴァレンティノは彼の連れの女優をダンスフロアにかっさらい、目の前で性的隠喩に満ちたダンスを踊り圧倒する。ここでもクビを言い渡された彼は、プロデューサーの持っていたビールジョッキをかかとで蹴り、彼をビールまみれにする。

ヴァレンティノがスターダムに上り詰めるにあたり、ハリウッド業界の女性関係者たちが大きな役割を果たしたことが分かる。

彼女がいる年上のレズビアンの女優と結婚したのは、出会った年に母親が亡くなったばかりだったからであることが示唆される。

スクリーン内のヴァレンティノを求める映画館にぎっしり詰まった女性たちの欲望の目、みたいなものをしっかり捉えているのがいい。

ヴァレンティノとジーナ、ナターシャが『牧神の午後』をフォトシュートで再現する場面がある。冒頭に続いてニジンスキーへの言及。

彼が重婚で収監されたとき、映画会社の重役はたった1,000ドルの保釈金さえ払わずに、彼のスキャンダルを映画の宣伝に利用した。看守に牢屋でコーヒーを飲まされたがトイレの使用が許されず、ルディは小便を漏らす。

彼をハリウッドで最初に見出した女性脚本家ジューン・マティスが、推しをずーっと見てる感じがいい。

クリエイティブ・コントロールにこだわりがある二番目の妻ナターシャと一緒に映画監督に逆らい、仕事を干されているときに、新しいマネージャーがつき、ナターシャとミネラヴァという基礎化粧品をプロモーションすることになる。

コントロール・フリークであるナターシャともめたルディは、共演女優のローナと不倫をする。

ナターシャとルディが占星術にハマっていた描写も興味深い。ナターシャとルディが住む豪邸の周りを女性ファンが取り巻いて、"YOU! are the vision of my heaven!""YOU! are my love"といった類の言葉をマントラみたいに唱え続ける。本当にあったことなのかどうかは分からないが、初期の映画スターファンの狂い方を示していて怖い。

厚化粧をしているルディを揶揄うために、撮影直後にスタジオの天井にいたスタッフがパウダーパフを彼の膝に落とすエピソードがある。のちにルディはそれがボードヴィルのネタにされていることを知る。

「いつだって農夫(farmer)になりたかったのに!」とキレる(ヴァレンティノは農学を学んでいた)。

「俺はアメリカ人だ!ボクシングで決着をつける」と言うヴァレンティノに、一人のアメリカ人が挑戦を受ける。彼がほんとうにアメリカ人かどうかを試すように、「星条旗は永遠に」が試合会場で流れ、ルディは渋々敬礼する。ルディのコーナーに駆けつける脚本家のジューンとナターシャ。ボコボコにされるルディ。レフェリーに倒れ込み、動けない状態のルディ。彼を抱えてダンスするレフェリー。リングに投げ込まれる何十個ものピンクのパフ。

牢屋の場面とボクシングの場面で、顔が綺麗でダンスの上手い男というのを揶揄われ、比喩的に男に陵辱される場面が二つある(牢屋の場面ではご丁寧に、ヴァレンティノの顔を見ながら自慰をする精神疾患者の姿まである)。

天性の勘と運動神経のよさで、ルディは相手をノックアウトする。動けない相手を抱え込んでダンスをする意趣返し。その後、酒飲み対決を新たに申し込まれ、ルディはそれにも応戦する(なぜか横で一緒に飲むジューン)。

その酒飲み勝負でも相手を打ち負かし、"This American vindicated his honor and his manhood"と相手を讃える言葉をかけたあと、彼はバーを去る。

よろよろと屋敷に辿り着き、一人、「オー・ソレ・ミオ」に合わせ踊っているときに、倒れ込みそのまま亡くなる(本当の死因は虫垂炎と胃潰瘍の併発らしい)。

最期のとき、彼の手からオレンジがこぼれ落ちるのだが、彼は映画俳優を引退してオレンジ農園をやろうとしていたことの隠喩か。

彼の結婚はナターシャで終わりではないはずだが、彼女以降の女性関係のエピソードは省かれている。

レフェリーとルディ、それぞれが倒れ込んだ男を人形みたいに操り、ダンスの男役をすることによる男性性の誇示が、ボクシングのシーンである。この映画の冒頭ではヴァーツラフ・ニジンスキーとルディが男同士で完璧にスムーズな動きのタンゴを踊っていたのとは対照的である。男性同士の「男らしさ」における対抗心と、女性ファンの熱狂がルディの命を縮めたことが示唆されている。

特典映像でオーソン・ウェルズが過去のハリウッド・スターを語る番組のヴァレンティノ回が収録されている(まったく関係ないが、ディカプリオはもう少ししたらウェルズを演じられそうだな、と思った。ウェルズにしては声がかなり高いが。)。

なんというか、実際のヴァレンティノはもっと顔の凹凸がない、厚化粧な顔だったんだな、と思った。
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