朝焼けのニューヨーク。ヘンリーマンシーニの名曲「ムーンリバー」の流れる中、ティファニー本店に現れるジバンシイのブラックドレスに身を包んだ淑女。
映画史に残る名オープニングでうっとりするのも束の間、ショーウィンドウを覗き込みながらクロワッサンを取り出してムシャムシャと頬張り始めるオードリーヘプバーン。あれ、淑女じゃなかったの?ww
蓋をあけてみると、粗野でガサツで鼻持ちならない娼婦だったことがわかる。
和洋折衷のエクレクティックスタイルなインテリアは散らかり放題なのにカッコよく、男からの貢ぎ物もあるのだろうけれど、自由気ままに生きるホリーという女性をよく表している。インテリアやファッションが登場人物のライフスタイル、さらには人となりを示すことの重要さを知る教科書のような映画だ。
トランクケースの中に突っ込まれた電話、男のいる前で身支度してハットをかぶり振り返るオードリー。こうしたシーンは当初予定されていたジョンフランケンハイマーではなし得なかっただろう。監督のブレイクエドワーズは30代のまだまだ若手。主役のジョージペパードとはまったくソリが合わなかったらしいけれど、「オードリーを魅力的に見せる」という1点に置いてはそんなことはどうでもよく、見事な演出だと思う。
実際ペパードの演技は取り立てて観るところはなく、素行も良くなかったそうで、これだけのヒット作に出ていながらその後たいした活躍も見せていない。
けれども映画の中で歳の離れたオジサンにばかり恋をしていたオードリーが、ようやく同世代のイケメンとロマンスを演じるというのはやはり美しくて絵になる。
これと言ってそのくらいしか意味のない相手役(ペパードファンの方ほんまごめん)であればこそ、オードリーがなお引き立つ構図としての完成度なのかもしれない。
ムーンリバーをギターで弾き語るシーン。オードリーの生歌はけして上手くないけれど、それがとても良い。これもエドワーズが嫌がるヘプバーンを説得して歌わせたらしい。あろうことかお偉いさんはカットを要求したそうで、とんでもない話だ。時間ですよの浅田美代子を知らんのか!(いやそっちが後だ)
なんにしても物語を追いたい方にはなんだこれみたいな話だし、オシャレでステキなレディを観れると思ったら全然そんなんじゃないし、映画として観るべきところがどれだけあるかと言われたら、オードリー主演作だけでもほかに面白い作品はたくさんある。
けれども、オードリーヘプバーンという女優がかくも魅力的で、ファッションとインテリアとミュージックが最高で、自由奔放な女の子がこんなにも輝くことができる、やっぱりこれぞ映画!っていう意味では絶対に外せない1本。
映画「オードリーヘプバーン」公開記念レビューその6でした。