ひでやん

デッドマンのひでやんのレビュー・感想・評価

デッドマン(1995年製作の映画)
3.7
西部劇の娯楽性を捨てて描く死への旅。

会計士の青年が職を求めて西部の町へ向かう汽車の中。窓に流れる景色と、それを眺めるジョニー・デップの2カットだけでもOKと思う冒頭だが、暗転で時間の経過を表しながら、汽車に揺られる青年をのんびりと映すジャームッシュ。

寂れた空気が漂う町で、職に就けない青年が出会う花売りの娘。アップショットの切り返しにドキッとしながら、悪党から娘を守る展開を期待。それを裏切るのがジャームッシュで、ヒロインは呆気なくスクリーンから退場。

娘を撃った男をとっさに撃ち殺し、追われる身となる青年。泣く子も黙る3人の殺し屋が青年を追うのだが、遊ぶ子も寝るような追跡劇がはじまる。そこで期待するのが3対1の決闘で、鮮やかな早撃ちがラストになると思っていたが、西部劇の醍醐味をクシャクシャに丸めてポイと捨てるジャームッシュ。

青年の名は18世紀イギリスの詩人と同じウィリアム・ブレイク。詩人の亡霊だと勘違いしたインディアンは、死人を魂の故郷へ帰すための案内人となる。賞金目当ての追っ手を撃つ場面に高揚感はあるが、3人の殺し屋と一向に対峙しない事に思わずニヤリ。

映像に合わせて即興で演奏したというニール・ヤングのギターが叙情的で、死へ向かうロードムービーと相性が抜群。加速もせず一定の速度を保つ車、その後ろを走りながら「遅いな」と思っていると、「ジャームッシュが乗っています」と貼られたステッカー。だったら仕方ないやと、その速度に付き合う気分。

主人公の青年には目的というものがなく、詩人と勘違いされたままインディアンに導かれてゆくのが不思議だった。森を抜け、海と空が出会う鏡の一点へ向かうモノクロームの映像が美しかった。
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