鋼鉄隊長

放射能Xの鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

放射能X(1954年製作の映画)
4.9
購入したDVDで鑑賞。

【あらすじ】
ニューメキシコ州で怪事件発生。捜査に当たった保安官のベンは放心状態の少女を保護する。しかし彼女の家族は既に「THEM(奴ら)」に襲われていた…。

 個人的に一番好きな映画! 初めて観た時は感動で涙が溢れた。今でも度々見返しては感慨にふけている。この映画は怪獣映画の古典であり、その基礎を作った偉大な作品であると確信している。僕の知る限りでは、この作品において世界で初めて「怪獣」が登場したと思う。
 …それは少し言い過ぎたかもしれない。ただ、今までの映画とは一線を画することは間違いない。それまでのモンスター映画は、『キングコング』(1933)や『原子怪獣現わる』(1953)など、何らかの理由で人類の前に姿を現した「太古の生物(主に恐竜)」が題材であった。ほぼ全てのモンスターが「生きた化石」と言い換えることが可能な古代動物である。それに対して、『放射能X』には人知を超える進化を遂げた生物が登場した。生物史上類を見ない「怪獣」の誕生である。怪獣映画の歴史はここから大きく変化することとなるのだ。
 史上初の怪獣映画であることから、この映画の作りは非常に丁寧である。中でも怪獣出現までの展開は秀逸だ。ニューメキシコ州の砂漠で何かを探す警察の様子から物語が始まり、次に砂漠を彷徨う少女が現れる。ここで観客は警察が少女を探していたことが分かる。それと同時に注意深く見てみると、少女の持つ人形の頭部が欠けているのにも気づくはずだ。なぜ欠けているのかは次の場面を観れば分かるようになっている。このようにパズルを組み立てるが如く、一つ一つの謎を解明して犯人(怪獣)出現まで繋げている。推理パートの時間は映画の約1/3を占める28分。長さも絶妙だ。この導入部分は『空の大怪獣ラドン』(1956)や『エイリアン2』(1986)でも参考に使われている。
 さらに人類との攻防戦も実に見事である。専門家の意見を踏まえて慎重に捜査を続ける。少しずつだが着実に敵を追い詰めて、最後は都市部での戦闘だ。米国陸軍や海兵隊を動員した総攻撃は圧巻であり、『シン・ゴジラ』(2016)も顔負けのリアリティさだろう。登場人物が全員有能なのも『シン・ゴジラ』に似ている。もしかしたら何らかの影響があったのかもしれない。もはやほぼ全ての怪獣映画が『放射能X』の影響を受けたと言っても過言では無い。凄いぞ『放射能X』!
 だが、これほどまでに優れた作品であるにも関わらず、現在の知名度は低い。やはり怪獣がデカいだけの蟻だからだろうか…。だがしかし! 蟻を侮ることなかれ! 全長が2m70cmもあれば人なんて簡単に倒せるのだ。それに何度も言うが、この映画は怪獣映画の歴史を変えたのだ。『放射能X』万歳! 蟻映画万歳!これこそ後世に語り継ぐべき珠玉の映画である。
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