鋼鉄隊長

シン・ウルトラマンの鋼鉄隊長のネタバレレビュー・内容・結末

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

5/13(金)梅田東宝にて鑑賞

正直に言えば期待していたほどではなく微妙であった。これは精神的前作『シン・ゴジラ』にも共通する、当該シリーズ特有の無粋で退屈な空気を感じたからである。

もちろん徹頭徹尾こき下ろすほどの駄作では無い。むしろ公開一週間で3度劇場に足を運ぶほどにはハマっている。特に冒頭のシークエンス。これは素晴らしい!怪獣が現れる日常(アンバランスゾーン)をテンポ良く描く、あの導入には心踊る。単純に怪獣が沢山出て来て楽しいというのは勿論、『シン・ゴジラ』との分断をそれとなく示しているのが良かった。巨大不明生物第2号「マンモスフラワー」が開花する舞台は東京駅。ここにゴジラの凍結遺骸が無いことで、時系列上での続編でないとわかる。また、怪獣の総称が前作同様の「巨大不明生物」から「敵性大型生物」、「禍威獣」へと移り変わり、『シン・ゴジラ』とは別世界線を進んでいるとも考えられる。
いや、もう本当にこの導入には感動した。まずもってこの世界で初の巨大不明生物がゴメスである。言わずもがな『ウルトラQ』第1話「ゴメスを倒せ!」が元ネタだが、同話登場の原始怪鳥リトラが出現しないことで、人類と怪獣との歴史的初戦が超自然的存在の援助無しに勝利したことがわかる。僅か数秒に『シン・ゴジラ』を凌ぐ熱い攻防戦の存在を感じられるのが堪らなく興奮する。
総称が「敵性大型生物」に変わって最初の怪獣が、知性があり正しく接すれば危害を加えない古代怪鳥ラルゲユウスなのには、怪獣を安易に敵と見なした人類の危うさを感じさせる。他方で、禍特対が初撃破したカイゲルの元ネタは一夜にして文明を滅ぼした伝説の怪獣ゴーガであり、見失ったラルゲユウスと対比してその印象が初見とマニアでは真逆になるように設定されているようでニヤリとさせられる。

とにかく、怪獣描写の掴みは文句無し!しかしながら対する人類、主人公周りの「禍特対」はまるでダメ。「個性の強いはぐれもの集団」に仕上げたいようだが、前作の巨災対同様に「色んな部署からの出向組」以上のものを感じさせない。人物紹介を当の本人を前に早見あかりと長澤まさみのガールズトークで済ます芸の無さもそうだが、この時点で斎藤工の人格はウルトラマンに変わっている。なのに彼の変化について誰も疑問すら抱かない。こいつら本当に共同でカイゲルやパゴスを倒したのか?と思うほど、チームワークを感じさせない淡白さだ。
加えてウルトラマンの正体が判明した際も、拍子抜けするほどアッサリしている。いや、そんな簡単に受け入れるなよ!同僚がでっかい宇宙人なんやぞ!
そもそもあの方法でバラす必要があったのか疑問だ。誰が撮ったかわからない謎の動画。ほんのちょっと長澤まさみが調べただけで「改竄の形跡は無い」と決めつけるが、数分前には消えたデータをザラブ星人が復元するシーンがあった。なぜ誰もアイツの仕業だと疑わないのか?

そしてそのザラブ星人。これが全然なってない。ウルトラマンと人間(今回では主に禍特対)との交流がほぼ描かれていない中での登場。このタイミングで「実はウルトラマンは悪者で~」と言われても、「はぁそうですか」としかならない。これは「ウルトラマン=味方」が前提の描き方だ。そして、この辺りの政治パートが全く禍特対メンバーの物語にリンクしないのも腹立たしい。
個人的にはこの部分はザラブでなく、バルタン星人を出すべきだと思った。禍特対メンバーの誰かに憑依して閣僚らと面会すれば、ほぼ本編に絡みの無かった総理周辺らも人間ドラマに組み込めたことだろう。この時点ではウルトラマンと人類の関係性を揺さぶるのは時期尚早なので、そこについては後に出るメフィラス星人(こいつの人間態はすこぶる良かった)に任せる方が賢明だ。宇宙人の存在をバルタンで簡単に説明しつつ、ウルトラマンと禍特対が協力して怪獣を倒す話をもう少し挿入すれば断然良くなったことだろう。

だがここでふと思う。
じゃあ何が『シン・ウルトラマン』なのか。
何も「新しく」無く、「真(まこと)の」と呼ぶにはオリジナルの模倣であり、ウルトラマンを「神」と語る行為はシリーズへの冒涜でしかない。相も変わらずBGMは流用、既存怪獣に新しい価値観を付けずに登場。おまけに戦い方までパロディだ。元ネタがあってはじめて成り立つ作品。前作含め「シン○○」シリーズは、とどのつまり昭和特撮の現代リメイクなのだ。
リメイクだからダメだとは言わない。むしろ綺麗にリメイク出来ていればこうも不満に思うことはなかっただろう。元来ウルトラシリーズとは、「超自然的存在から自立した人間」を描く不変のテーマが根底にあると考える。初代ウルトラマンでは、宇宙恐竜ゼットンを前に破れたウルトラマンに代わり、科特隊(人類)が地球の平和を守り抜いた。そこから比べてなんと無様な話か。人工衛星が如く天高く浮かぶゼットンを前に、何も足掻くことなく人類はお通夜ムード。ウルトラマンがわざわざUSBに記して超技術を教え、それを調べた上でウルトラマンに退治を丸投げする。
呆れた。メフィラスからベータボックスを強奪したなら、その場で解析しろ。ウルトラマンに二回変身させるのではなく、とどめは我々人類がやれ!ここまで自立せずウルトラマンにおんぶに抱っこで終わらせた話を、ウルトラマンのリメイクであると何がなんでも認めるわけにはいかない。困った時の神頼み。これぞ正しく『「神」ウルトラマン』。ふざけるな!人類を舐めるなよ!

今回メインで関わった樋口真嗣も庵野秀明も、間違いなく特撮に造詣が深い人物だ。特撮が何たるかまるで理解していない某脱力系怪獣死骸処理映画を作ったボケナス連中とはわけが違う。それが!どうして!『大怪獣のあとしまつ』と同じオチをつけるのか!!
貴方たちの特撮魂はこの程度なのか!過去作ありきの同人制作が関の山なのか!
監督は忘れてしまったのか。大映ガメラをぶっ潰してブチ立てた「亀が存在しない世界に現れた古代アトランティスの生物守護兵器の物語」を。劇的な改変にオタクが不満を漏らそうが何のその。全く新しい怪獣特撮を作り上げる。それこそが「シン」なのではないか。オタクに媚びるな!小ネタに走るな!
着ぐるみを捨て、ちゃちなCGでなぜ同人映画に甘んじるのか。なぜ「禍威獣は日本にしか現れない」のか。何が「生物兵器」なのか。そこに触れぬは逃げである。樋口よ庵野よ、徳間ガメラへ帰れ!

脚本が甘いからか、『シン・ゴジラ』に群がった「震災」だの「原発」だのと結び付ける無粋な批評が少ないのは喜ばしい。だがこの映画に浪漫は希薄だった。悔しい、あー悔しい。それでも待つぞ、『続シン・ウルトラマン』。日本特撮はこんなもんじゃないと見せつけて欲しい。
鋼鉄隊長

鋼鉄隊長