カツマ

エスターのカツマのレビュー・感想・評価

エスター(2009年製作の映画)
4.0
裏表がある、というレベルじゃない。天使と悪魔が同居する無垢な微笑み。その甘い匂いに誘われて、アリ地獄のような狂気はヒタヒタと忍び寄る。壊れていく日常、狂いゆく愛の形。一人の少女が巻き起こす災難の嵐は果てなき負のスパイラルへと拡張し、やがて全ての恐怖を掌握する。何かがおかしい、そう、彼女は普通の少女ではなかった・・!

今やリーアム・ニーソンら大物を主演に据えて、スリリングなアクションまたはスリラー映画を連発するようになった監督ジャウム・コレット・セラ。そんな彼が大きく名を挙げたのが、今やホラー映画の定番となった不気味少女無双スリラーこと『エスター』だ。そしてこの得体の知れない恐怖にしっかりと伏線と回答を用意する周到な脚本力をもたらしたのは、こちらも『アクアマン』など大作にも進出している脚本家デヴィッド・レスリー・ジョンソン。そんな才能同士の高次元の結晶が、少女の不気味さへと全振りされて誕生した、振り切れ過ぎた愛憎劇が幕を開ける。

〜あらすじ〜

ケイトとジョンの夫婦は3人目の子供を流産させた、という悲しい過去を引きずりながら、二人の子供たちと共に平穏な日々を過ごしてきた。
未だにお腹の中で消えていった命に心を引っ張られ続ける二人は、ついに養子縁組を決意、孤児院へと足を伸ばした。
そこで二人は黒髪の愛らしい少女エスターに出会う。彼女は理知的で可憐。二人ともすぐに打ち解け、晴れて養子縁組が成立した。
夫婦の二人の子供ダニーとマックスはそれぞれにエスターに異なる感覚を抱いた。ダニーはエスターにどこか気味の悪さを感じ、一方、聴覚障害のあるマックスはエスターを本当の姉のように慕った。
5人家族になった一家はその平穏を増すはずであった。しかし、エスターの周りで次第に奇妙な事件が起こり始め・・。

〜見どころと感想〜

序盤からホラー映画としての不気味な質感はキープしつつ、力業ではない浸透させるような恐怖が特徴的な作品だ。超常現象など説明不能なB級感とは無縁であり、あくまで恐怖の源泉を鮮明にすることで、エスターの行動原理までサラリと盛り込むことができている。お化け屋敷型の脅かしスリラーではないため、恐らくビックリ要素が苦手な人でも大丈夫。その分、禍々しさは特盛りなのでホラーとしてしっかり怖い。

母親役のヴェラ・ファーミガは『死霊館』でも似たような役をやっており、ホラー映画との親和性はバッチリ。彼女は芯の強い母親像にもピッタリで、子供を守る母親としての母性の強さを感じさせてくれる。そしてエスター役のイザベル・ファーマンは正に彼女しかあり得ない、と盲信させるほどの超絶フィット。特に子供の顔とそれ以外の顔との演じ分けは絶妙だ。ちなみに彼女はその後も女優として活躍中。まだ20代半ばと若いため、今後もその姿を拝める可能性は高いだろう。

一人の悪魔を迎え入れたせいで崩れゆく家族の絆。それら全てを束ねるには何者にも変えがたい家族への愛が必要だった。テーマはシンプルであるが、マックス役の女の子を難聴設定にしたりとストーリーをスリリングに見せるための仕掛けを満載。それらを全開放するかのごとく後半部は圧巻だ。
何と続編?が作られるそうですが、そのタイトルは果たして・・!続報を期待して待ちたいところです。

〜あとがき〜

前日譚?が描かれることでも話題の『エスター』をようやく鑑賞です。脅かし系に逃げずに恐怖を武器として使えていること。そしてしっかりと段階を踏んで不穏な空気感を増幅させている、その展開力の上手さは特筆すべきレベルでしょう。

ホラー映画を面白く怖くするには音楽とカメラワークに抜群のセンスが必要だと思っていて、ジャウム・コレット・セラがその後売れっ子監督になっていった理由がパンパンになるまで詰め込まれた作品かと思いますね。
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