カツマ

ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男のカツマのレビュー・感想・評価

4.2
人類の歴史にはいつだってスポットライトを浴びる偉人がいて、英雄がいる。その歴史上の人物の大きな影の中には無数の人々がいて、影の下からたった一人の英雄を押し上げている。このバイヤード・ラスティンという人物は正にその影の中の一人だろう。マーティン・ルーサー・キングのあの有名な演説をお膳立てした人物による、縁の下の奮闘劇。それは主役に負けないほどにドラマティックで、混迷を極める歴史の1ページであった。

〜あらすじ〜

1960年代初頭、公民権運動家のバイヤード・ラスティンは、マーティン・ルーサー・キングを主軸とした大規模なデモを計画していた。若手の運動家たちを集め、彼らから意見を募り、その計画は少しずつ形を帯び始めてきていた。が、当のラスティンは友人のマーティンの助力を得られず、政治も味方につけられない状態。しかも、ラスティンがゲイであることが秘密裏に暴露されようとしていることも、活動に逆風を吹かせていた。ケネディの宣言も黒人の立場を押し上げるものとは言えず、これで差別が緩まるという考え方はあまりにも楽観的だった。それでもラスティンは諦めるという選択肢をかなぐり捨て、マーティンとの友情を再び蘇らせようとする。その大規模なデモ計画はワシントンD.C.に10万人を集めるという未曾有の行進であり、ラスティンはマーティンを味方に付けることで、実現不可能と揶揄された伝説の一日への足がかりを作ろうとしていた。

〜見どころと感想〜

この映画は伝記映画である。しかも、バイヤード・ラスティンという人を世に知らしめたい、という熱意をハッキリと感じられる情熱的な映画である。ゴール地点は1963年のワシントン大行進とハッキリ決められているため、ストーリーが分かりやすく、登場人物が多くても付いていける脚本が徹底されている。音楽も『Road to Freedom』を書いたレニー・クラヴィッツをはじめ、どれも素晴らしいものばかりで、サラリとお洒落な作りなっている点もニクい。

キャスティングではアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされるなど、その演技が高い評価を受けた主演のコールマン・ドミンゴが圧巻である。バイヤード・ラスティンという人の情熱的な面と繊細な面を見事に演じきり、またテンポのよいセリフまわしで物語に強靭な活力を注入した。共演にはオスカーでウィル・スミスから平手打ちを食らった件でも話題を呼んでしまったクリス・ロック、更には大御所のジェフリー・ライトなども出演。マーティン役には『ボクシングデー』で監督と主演も兼ねたアムル・アミーンが抜擢されている。

監督のジョージ・C・ウルフは『マ・レイニーのブラックボトム』に続いて、音楽と歴史を同居させた完成度の高い作品をものにした。そのバックにはオバマ夫妻の映画製作会社ハイヤー・グラウンドがついており、Netflixを味方につけ、『終わらない週末』と今作という、メッセージ性の強い作品を次々と送り出してきている。クオリティはかなり高いため、映画を観たという充実感を得られる一本。ハイヤー・グラウンド製作の作品は今後も要注目であろう。

〜あとがき〜

シンプルに良い映画ですね。かなり完成度が高くて、穴が見当たらない作品だと思います。『マ・レイニーのブラックボトム』を撮った監督だけあって、とにかく音楽が良くてテンポも抜群、尺も妥当と、映画作りの巧さが際立つ印象です。

今年のオスカーでは『アメリカン・フィクション』が黒人メインの映画としてノミネートしていますが、次点候補がこちらだったかもしれませんね。映画として発表されるべき意義を強く感じる一本なので、歴史の勉強としても機能するという意味でも非常に器用な作品と思いました。
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