Tラモーン

あるいは裏切りという名の犬のTラモーンのレビュー・感想・評価

4.0
久しぶりのフレンチノワール。
容赦ない悲しみと正義感を揺さぶるラストシーンが素晴らしかった。

パリ警視庁探索出動班(BRI)の警視レオ・ヴリンクス。荒くれ者の揃いのBRIだが、情に厚い部下たちはレオのことをとても信頼している。
一方、パリ警視庁強盗鎮圧班(BRB)警視のドニ・クランは冷徹で、厳しく部下を管理していた。
二つの部署は水面下で激しく対立し合う関係だった。そして対照的な2人以前は友人関係だったが今は部署同様、冷え切った仲となっていた。
両班は一年半に渡り凶悪な連続武装強盗犯を追っていたが、近々昇進を控えた現警視長官はレオを自分の後任にしたいことを伝え、犯人逮捕の檄を飛ばす。反対にドニに対しては、レオの班を援護するようにと指示を出す。出世欲と権力欲が強く野心に溢れるドニは功を焦る。

冒頭のBRIのエディの送別会のシーンがめちゃくちゃ素敵。警視庁の看板引っぺがしてきて寄せ書きにするとか荒くれ部署にもほどがある笑。でも班の結束が強いのが伝わってくるし、細かいことゴチャゴチャ言わないボスのレオはいい上司なんだろうなと伺わせる。

そこが伏線になっての強盗犯逮捕作戦の描き方が絶妙。出世のために功績を挙げることだけに目が眩んだドニの身勝手な行動で失われる命。あー、胸張り裂けそう。ドニ本当許せねぇ。言い訳まで腹立たしい。でも喪に服す式典でのBRIのみんなの反旗がまたカッコイイんだ。

しかし、昔気質なレオにも後ろめたいことが無いわけではない。大義のためとは言え、半分騙されたとは言え彼の手も汚れていた。
凶悪強盗犯を検挙したのも束の間、ドニの密告でレオは一転して囚人となる。独房で妻と娘を思う姿が泣ける。収監される護送車に向かって「待ってますから!」の声がかかるのも泣ける。いい旦那で父で、いいボスやでレオ…。

そしてレオが収監されている最中に起こる決定的な事件。もうドニ許すまじ。そんな行き過ぎた捜査をしてまで出世したいかよ。欲望に塗れた権力のクズめ。こんなに胸が張り裂けそうな葬式のシーンは今まで観てきた映画の中でも屈指の辛さ。レオはどんな気持ちで花を手向け、娘にキスをしたのか…。レオの絶叫も、枕を濡らす涙も救いがなさ過ぎる。

7年後、模範囚として出所したレオ。
ここから華麗なる復讐劇が!と期待していたら少し違った。レオには彼なりの正義がしっかり残っていた。そして娘ローラとの「もう1人にしないで」という約束も。
警視長官となったドニにトイレで銃口を突き付けるレオ。しかし彼は、自身の正義感とせめてもの慈悲の心、そしてドニの良心を信じたんだと思う。

そして呆気ないラストシーン。お前かよ!とツッコミたくなる気もするが、つまりはレオの部下からの信頼と、ドニの薄汚れた足跡が招いた自業自得が産んだ結果ということだ。

母親そっくりに成長した娘ローラと、レオの後ろ姿が最高に泣かせてくれた。
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