めしいらず

探偵スルースのめしいらずのレビュー・感想・評価

探偵スルース(1972年製作の映画)
2.8
シェーファーの舞台劇をそのまま映画に移し替えた二人だけの会話による室内推理劇。妻を寝取られた側の高名な老推理作家から、寝取った側の若くハンサムな美容師へ持ちかけられる提案。その裏にはある意図が隠されていて…。男は嫉妬に狂い易く、赤恥をかかされた遺恨を晴らさずにはおかない生き物である。ミステリの作劇になぞらえるようにして進む復讐劇の遊び心。しかし二人の騙し騙されは次第に緊張感が高まっていき、いよいよ抜き差しならない事態へともつれ込んでいく。探偵小説好きの間では伝説的な映画。何と言っても舞台装置の魅力がその興趣を刺激してやまぬ。広壮な大邸宅。庭園には生垣の大迷路。豪奢な設え。パズル。時計。エドガー賞作家に授けられるポー像。其処此処で不気味な笑顔を浮かべて佇む数多の自動人形。そのけたたましい哄笑の中で物語は不穏に幕を閉じる。また舞台劇を観ているが如き名優二人の格調高い会話も流石の耳心地。ただ物語自体の魅力はさほどでもない気もしないではない。後半のドタバタが少々くどい。本作は1991年の「大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150」(文藝春秋ビジュアル版)において第22位と高評価であった(因みにベスト3は「第三の男」「恐怖の報酬」「太陽がいっぱい」)のだが、本作への票を投じたのが軒並みミステリ作家やミステリ評論家とミステリ関係者ばかりなのが面白い。それによると分かる人には分かるペダントリーが散りばめられているのだそう。とまれミステリを愉しむ素養は稚気であるから、ミステリを読まなくなって久しい私はそれが失われただけなのかも知れない。
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