ボブおじさん

リプリーのボブおじさんのレビュー・感想・評価

リプリー(1999年製作の映画)
3.8
ある年齢以上の映画フアンがこの映画について語り出すと、必ずアラン・ドロン主演の名作「太陽がいっぱい」との比較になる。そして話している間にいつの間にか「太陽がいっぱい」についての話になってて「リプリー」が行方不明になるという事件が世界中で起きているとかいないとか…

自分も「太陽〜」との比較をしないでこの映画について書こうとすると、まるでヤク中の禁断症状のように言葉が喉から出そうになる(^^)
だが今回は敢えてこの過去の名作との比較を封印し純粋にこの映画について書きたい。

さて「リプリー」の話である。
ご存じ「太陽〜」   …もとい
ご存じパトリシア・ハイスミスが1955年に書いた〝The Talented Mr. Ripley〟が原作のサスペンス映画。

貧しい青年リプリーは偶然、大富豪グリーンリーフから、南欧で放蕩生活を送る彼の息子ディッキーを米国に連れ戻すよう頼まれる。渡欧したリプリーは大学の同級生と偽ってディッキーに接近。陽気で友人も多いディッキーにリプリーが惹かれていく一方、ディッキーはリプリーが同性愛者ではないかと考え、彼を遠ざけだす。最後の別れを告げられたリプリーはディッキーを殺してしまうが、彼の筆跡をまねて彼に成り済まそうとし……というのがあらすじ。

リプリー役に“ジェイソン・ボーン”シリーズのマッド・デイモン。さらに「ホリデイ」のジュード・ロウ、「恋に落ちたシェークスピア」のグウィネス・パルトロウ、「ブルージャスミン」のケイト・ブランシェットらという今となっては実現不可能な豪華な顔ぶれが結集した。更には後にアカデミー主演男優賞を受賞するフィリップ・シーモア・ホフマンが脇役でいい味を出している。若くして亡くなられたのが残念。

今では皆んな大スターだが、この頃は期待の若手俳優という感じだろうか。ちなみにジュード・ロウはこの時27歳で、彼が最も美しかった頃だと思う。

監督・脚本は「イングリッシュ・ペイシェント」でアカデミー賞を獲得したアンソニー・ミンゲラ。舞台となるイタリアの美しい街並みと名所の描き方が素晴らしい。

ローマのスペイン階段、ベネチアのサンマルコ広場、サンレモのジャスフェスティバル、漁村の景色、中でもナポリのジャズ・クラブ「カフェ・ラティーノ」のシーンが最高に盛り上がる。

モダンジャズを中心とした音楽も良く、劇中でマッド・デイモンが歌う〝MY FUNNY VALENTINE〟は、ぼそぼそと切なく歌っている感じが役柄によく合っている。

〝才能あるリプリー〟は、自分の欲望の為には平気で人を騙し、自分を偽り、遂には殺人まで犯してしまう。常識からは完全に逸脱したアンチヒーローであるが、そんな彼に人はいつの間にか吸い寄せられ、見ている自分もいともたやすく感情移入させられてしまう。

フィリップ・シーモア・ホフマンが演じたディッキーの友人役の登場に苛立ち、思わずリプリーと同化している自分にハッとした方も多いのでは?

犯罪者に感情移入してその人物の共犯者になってしまうように仕向けられるのは、この悪党を憎めないキャラクターとして描いたパトリシア・ハイスミスの筆の力が大きいのだろうが、マッド・デイモンの演技も大したものである。

いろいろ比較される宿命を背負った映画だが、脚本、役者、音楽とも良く純粋に楽しめる作品だ。

何とか我慢して最後までたどり着いたので言わせてください。間違いなく世界で1番「太陽がいっぱい」が見たくなる映画です(^^)。


数日前に「キャロル」を見てパトリシア・ハイスミスつながりで思い出し。公開時に劇場で見た映画をDVDにて再視聴。