Hopelessness

オーケストラ!のHopelessnessのネタバレレビュー・内容・結末

オーケストラ!(2009年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ある事件から30年前に楽団をクビになった指揮者アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)が、かつての仲間たちと楽団を偽ってパリで演奏するというなかなかファンシーな設定である。

加えて戯画化されたロシア像が強く出ておりコミカルな印象も与えているが、その実は人種・民族の問題、フランスとロシアの関係性、ソ連時代の共産党支配と現在、そしてソリストのアンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)の出生の謎が平行しており、これらが絡み合いながらラストシーンのチャイコフスキーのバイオリン協奏曲に収束していく。

ここでは、相当にご都合主義的に見える本劇のラスト、30年振りに集まった団員がリハーサルなしで本番に挑み大団円を迎えるシーンを読解してみたい。

チェリストのサーシャ(ドミトリー・ナザロフ)の発言から、各団員が30年前の事件以来ずっと、アンドレイの指揮を彼と同じようにイメージしてきたことがわかる。ある意味で団員はみな、個々人ではコンサートに挑む準備が出来ていたということである。
ただ、アンドレイがアンヌ=マリーに語ったような「協奏曲の完全性」はまだ満たされない。ソリストの不在である。
30年前からのこの傷はこの楽団員に深く刻み込まれ、それを埋めるために享楽を求める。パリでの楽団員の行動はこの文脈において理解できる。

この不在は、30年前にソリストだったレアの遺児、そしてスコアを受け継いだアンヌ=マリーの演奏によって満たされる。冒頭まったくもって不完全だった演奏は、彼女の演奏が始まってから完全に調和した協奏曲へと変貌する。アンドレイ達の空白は30年ぶりに満たされ、ここに至ってようやくバラバラだった彼らの不遇は、音楽を通して一体となり完全に乗り越えられるのである。

劇はこのスペクタクルに相応しい、華麗なチャイコフスキーのバイオリン協奏曲の演奏とともに幕を閉じる。

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メラニー・ロランの理知的でそれでいて芯の部分では熱く、という姿は本当に美しいですね。衝撃的でした。
Hopelessness

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