コーカサス

愛と死の記録のコーカサスのレビュー・感想・評価

愛と死の記録(1966年製作の映画)
3.1
渡哲也さんを偲んで。

まだ戦後20年も経たない広島を舞台に、原爆症に苦しむ青年・幸雄 (渡) と、彼をひたむきに愛し支えた女性・和江 (吉永) の愛と死の物語だ。

監督は日芸映画学科卒業後、松竹から日活へ入社し『俺は待ってるぜ』でデビューした蔵原惟繕 (くらはらこれよし)。
その独特のロングショットや長回しがとても印象的だが、思えば後の『キタキツネ物語』や『南極物語』も同監督作品なので、その画期的な構図とキャメラワークは、この時すでに完成されていたと云っても過言ではない。

1966年当時の広島の街並みや人々の生活、さらには製版屋やレコード屋といった今では存在しない職種もスクリーンの中で生き生きと描かれている。

個人的には“おムギ”こと芦川いづみの出演シーンがこんなにも少ないのかとガッカリしたが、それでも恋や仕事に一生懸命な美しい吉永小百合を筆頭に、浜川智子、中尾彬らといった当時の“若者たち” を見ていると、今の時代と何ら変わりはないのだと改めて実感。

そして、銀幕スタア・渡哲也だ。
往年はドラマ俳優のイメージが強く少々残念だったが、当初は“第二の裕次郎”として、“日活モダニズム”の紛れもない象徴だった。

本作『愛と死の記録』は、幸雄と和江の記録である一方で、渡と吉永が初共演を為した貴重な記録でもある。

229 2020