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パプリカのKKMXのレビュー・感想・評価

パプリカ(2006年製作の映画)
4.3
 夢って不思議ですが、明らかに自分の内部から生まれてくるものなので、自分自身とは無関係なはずがないです。だから、理論的な夢分析は、その人の内的な現状をくっきりと映し出すのでは、と確信しています。
 また、個人的な見解ですが、夢は見るだけでヒーリング効果があると思うのですよ。そもそも睡眠は自己修復作業でありますし、それによって心的な傷も治しているのでは、と直観してます。夢を見ているときの状態であるレム睡眠の目の動きが、トラウマ治療に生かされていると聞いたことがありますし、フロイトおじさんも夢は無意識への王道だ、とか言ってますしね〜。


 さて、普段から夢に興味のある私にとって本作はド真ん中な作品でした。
 メインストーリーは夢をハッキングする夢テロリスト(?)と夢の中に入って行く夢セラピスト(?)のパプリカたちとの戦いですが、それと並行して描かれる千葉=パプリカと、粉川刑事の夢を通じての自己修復・成長の物語がツボでした。

 この2人の物語は、じつはドッペルゲンガー物でもあります。
 ドッペル映画はだいたい『生きれなかった自分との対決・統合』がテーマで、わりとシンプルな構造だと感じています(『ふたりのベロニカ』みたいに高度なやつもありますが)。
 そういえば、今敏のデビュー作品『パーフェクト・ブルー』もドッペル映画でした。

 粉川は刑事としてよろしくやってますが、思春期〜青年期に諦めたもう一つの人生があり、それが粉川の影となり彼を苦しめます。
 そして粉川は夢の中で影と対決します。この『夢の中で』『対決』というのが個人的にアツい!やはり、自分を苛むもうひとりの自分と対決しなければ次のフェーズに進めませんし、日常の営みの場での対決は難しいのでその舞台が夢の中なのはとてもスマート!それをサポートするのが夢セラピスト・パプリカ。このシチュエーションも好みですね〜。サブストーリーなのでわりとアッサリと物語られましたが、それでも十分に旨味がありました。粉川が反復夢の中でずっと進めなかった一歩を踏み出すシーンは激烈に感動しました。最近のガーエーでこんなシンプルなのはなかなかお目にかかれないので、逆にグッと来ました!

 研究所のスタッフ・千葉はビシッとスーツを着込み、髪もまとめて隙のない雰囲気の仕事ウーマンです。笑顔もなく、物事を理論的に考えてる人で、現代合理主義の権化って感じです。まるで「私は私を完璧にコントロールしてます」みたいな雰囲気があります。だいたいそういう不自然な人は、正反対の自分を無意識下に抑え込んでいるものです。作中の序盤、千葉ちゃんは「夢を見ない」と言っていました。このタイプの人で夢を見ないのはヤバい兆候のような印象を受けます。
 そんな千葉ちゃんのもうひとつの人格がパプリカ。パプリカはカジュアルファッションで軽やかに動き回ります。自由な雰囲気のパプリカは、自分自身を縛る千葉ちゃんにたびたび本当の自分を生きるよう促してきます。
 この、千葉ちゃんとパプリカの関係が友好的でよいです。夢を通じて向かい合うので、安全です。現実で千葉ちゃんとパプリカが出会えば、おそらく破滅的な関係になっていたでしょう。ガチなドッペル関係になり、血みどろの戦いになると思います。

 ドッペルに出会った人は死にます。象徴的に死んで再生するパターンが多いでしょうが、激しい戦いに敗れてガチで死ぬ人もいるのでは、と思うところもあります。日常で出会うとそんな危険もありそうですが、夢の中ならば非日常なので安全に向かい合えるのでしょう。それは粉川も同じで、結構安全に影と戦ってますね。


 夢の描写がサイケデリックで最高でした!また、現実との境界線がぼやける危うさも、本作のドラッギーな魅力のひとつだと思います。
 ただ、敵側の動機である傲慢さや羨望は、敵になるにはちょっとシンプル過ぎる気もします。メインストーリーへの関心はそこそこって感じでありました。

 いや〜、しかし興奮しましたね!かなり面白いガーエーでした。
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