サマセット7

ハリー・ポッターと謎のプリンスのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.8
ハリーポッターシリーズ第6作品目。
監督は前作に続きデヴィッド・イェーツ。
主演はシリーズ通じてダニエル・ラドクリフ。

今作ではヴォルデモート卿復活が衆目の知るところとなった後の、ハリーのホグワーツでの6年目の学園生活が描かれる。

今作は、原作全7巻の6巻目であり、最終章一歩手前の章に対応する。
終幕に向けこれまでの学園生活を総括する描写、あるいは最終決戦に向けた様々な伏線を張る描写が数多く見られる。
また、いわゆる「溜め」として、ハリーを巡る状況や世界の情勢は、悪化の一途を辿ることになる。

英国人のイェーツ監督の持ち味と思われる、ダークなサスペンス風の抑制を効かせた描写は、今作でも一貫して見られる。
今作では恐らくは意図的に、ロックハートやアンブリッジのようなド派手な新登場キャラクターも、ドラゴンやヒッポグリフといった大型魔法生物も登場させず、既存の人物の掘り下げに徹している。

今作のストーリーを牽引しているのは、序盤に提示される、いくつかの謎である。
新たな魔法薬教授ホラスの過去に隠された秘密とは何か?
ハリーにホラスの調査を命じるダンブルドアの意図とは?
魔法薬の精密な製法や独自の闇の魔法が記入された教科書の過去の持ち主「半純血のプリンス(The Half-blood Prince)」とは何者か?
父親が死喰い人であることが明らかになったドラコ・マルフォイの企みとは何か?
死喰い人と接触し、ドラコを見守るスネイプ先生の真意は?
学園で見られるようになる呪いや毒を仕掛けたのは誰か?
そして、ハリー、ロン、ハーマイオニーがそれぞれ自覚した恋心の行方は?
これらの謎が次から次と並行して提示され、徐々に解き明かされていくため、先が気になり、飽きさせない。

背景として、寂れたダイアゴン横丁や死喰い人の数々の破壊工作活動、学園の警備体制などが描かれて、世界が徐々にヴォルデモートの影響下に置かれていく様が暗示される。

いくつかの謎が明らかになり、更なる謎を呼ぶ終盤の展開はなかなかの衝撃。
ここに来て、ハリーらの状況は最悪を迎える。

今作は、いわば死の秘宝に続く前振りの話であり、前作まで以上にシリーズの流れの中の一作という印象が強い。
そのため、今作単独の一貫したテーマというものは見出し辛い。
あえて言うなら、「少年少女の恋模様」と「師弟間の言葉にならぬ関係性」か。

今作にて、ハリーには新たな気になる相手ができ、ロンはひと時のモテ期を味わい、一方ハーマイオニーは自らの恋心を自覚する。
この辺りの恋模様、もっと言えば「自分にとって最も大切な人を自覚する様子」は、シリーズを通じたキャラクターの成長の証と思える。
大人になり切る前の甘酸っぱい色恋沙汰は、ダークな展開を見せるシリーズ終盤にあっても、少年少女の成長を描きたい原作者にとって、絶対に外せない要素であったのだろう。
シリーズファンには、ニヤニヤするご褒美である。

一方、今作では、ホラスとトム・リドル、ハリーとダンブルドア、スネイプとドラコといった師弟関係の描写が頻出する。
彼らのいずれも、互いに真意を理解したとは言い難い、独特の緊張感を持っている。
終盤、師弟関係が交差し、ドラコはダンブルドアと、ハリーはスネイプと対峙する構造は興味深い。
先生と生徒という、少年期〜青年期に独特の関係性のもつ、微妙な綾を感じさせて味わい深い。
このテーマは、学園ものであるシリーズ通じての
ものであり、次作に引き継がれる。

今作はシリーズの最終章直前の一編として秀れた作品だが、いくつかの難がなくもない。
まず、いくつかの飲み込み辛い描写が見られる。
例えば、キーになるキャビネットの描写やハリーの前作からの心変わり、ジニーの心情の変遷など、映画版だけ見ると若干の説明不足や飛躍が見られる。この辺りは想像や原作で補完するのが吉か。
死喰い人の台頭描写が最低限のため、世界の危機を感じ難いという点も難点である。
いずれも長大な原作を2時間半に整理した弊害と言えそうだ。
また作者の意図は分かるが、やはりファミリー向けファンタジー超大作にしては、全体として暗く地味な作品、という批判はあり得るだろう。
特にイェーツ監督のダークで抑制的な作風は、作品に洗練された品の良さを加える反面、印象に残る場面すら比較的サラッと淡白に流れてしまうという弊害もあるように思う。
気になるかは好みの問題だろうが、少なくとも好みの分かれる作品とは言えるだろう。

シリーズ終盤の必見作。
なお、個人的には、シリーズで触れられてきた魔法薬の活用があの手この手で、たくさん見られて満足。
特に久々のクィディッチにおけるロンの活躍に絡む、ある薬に関するハリーとハーマイオニーのやりとりには、ニヤリ!となった。
あと、相変わらずルーナがいい味を出している。
ライオンの帽子!
最終章にも期待したい。