Ren

スターシップ・トゥルーパーズのRenのレビュー・感想・評価

4.0
『ベネデッタ』前に何か観ておこうと思い、Disney+で初鑑賞した。一筋縄ではいかないSFらしいことは聞いていたし勘付いてはいたけど、なるほどこれがヴァーホーベンかと納得。悪趣味と意地悪の博覧会。

一風変わったSFくらいに思っていたけど、ただ舞台が宇宙になっただけの戦争映画だった。『フルメタル・ジャケット』とかが近そうだけど、威勢良く入隊した若者が徹底的にしごかれて戦地で爆散していく様は『西部戦線異状なし』のようでもある。

画面の隅々まで映る抜かり無い出血、殺傷、人体破損、虫を潰せばスライム状の体液が流れ出る。生物がしっかりぐちゃぐちゃになるリアリティの世界の話で、ファンタジーではない。

しかし、迫真の惨劇を描いているのにどこかフザけている。でっかい宇宙船や光線銃などの如何にもなガジェットで「みんなの好きなSFでっせ〜」といった顔をし、ヘラヘラ近づいてきてその手で戦線を血で染める。
今作公開時には生まれてすらないので偉そうなことは書けないが、観客がかつて「スター・ウォーズ」に興奮した事実そのものがフリになっている気がした。映画を見始めた時点で既に観客にはリコと同じ「戦いたい/戦っているところを見たい」というバイアスがかかっている。それをさらに補強するのが序盤の『トップガン』的若者青春ストーリー(笑)だ。そしてそれを利用するヴァーホーベン。性格が悪い。

虫には知能があるかもしれない、という学説をひねり潰してただの虫だろ殺せ殺せと躍起になる人間たちのグロさと愚かさと後戻りできなさ。その虫たちが本当に知性を生かした攻撃を目の当たりにする終盤の展開。「自分たち(人間)の脅威を理解させた」から「相手に知能があることを喜んでいる」のが怖すぎる。
ラストでもしや真正のプロパガンダでは?と一瞬思わなくもないが、ここまでの流れを考えれば「プロパガンダに洗脳されきった若者たち(笑)」という皮肉と捉えてよさそう。

宇宙へ行ける時代になっても世界大戦の頃と同じ構造を繰り広げる人類の「歴史は繰り返す」愚かさを全力でイジりまくった米国批判の反戦映画でファイナルアンサーでいいと思う。

今作をそのまま右翼のプロパガンダと受け取る層も一定数はいた(いる)らしく、プロパガンダとプロパガンダ批判は対局にあるようでいて一周回って繋がっている概念なのだと思った。戦争をそのまま描けば描くほど反戦の度合いが高まるのはこの数十年のリテラシーの変化の結果だ。

個人的には、ifの世界のSFではなく我々の向かう未来っぽさをもっとディテールで高めてほしかった。あんなパネルとか映像の感じはは2023年ですら古いよ。現代の観客がこんなことを言うのはさすがにズルいとは思いつつも気になってしまう。

その他、
○ 中盤の、悲劇と楽観と悲劇を1分も無い中で詰め込む展開が最高。キャラクターを殺し惜しみしない。
○ 虫の親玉の口元が誰がどう見たって女性器デザインなのが悪趣味全開。ラボでその口に器具を突っ込むところ、完全に『ベネデッタ』の拷問シーンだったぞ。
○ 空から地中から襲いかかるバグズに囲まれた瞬間の絶望感。圧倒的な数の暴力と見た目のキモさ。今も奴らは砂丘でアリジゴクのようにすり鉢状の巣を作り砂をパッパパッパ払いながら獲物を待ち構えている。
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