TSUTAYAで借りたDVDで鑑賞。
【あらすじ】
高校を卒業したリコは片思いの相手イバネスを追って軍に入隊。そのまま昆虫型宇宙生物との戦争に身を投じた…。
この作品は非常に優れたプロパガンダ映画である。これを観れば国策プロパガンダがどんなものか良くわかる。そもそもこれは、ドイツ第三帝国の国策映画『意志の勝利』のパロディ作品。しばしば連邦軍の宣伝が挿入されるのはそのためだ。そしてこの物語は、プロパガンダを分析したイギリスの政治家アーサー・ポンソンビーが提唱する「戦争プロパガンダ10の法則」に従って展開されている。以下はその法則と映画での描写について。
①「我々は戦争を望まない」
民主主義体制が崩壊し、人類は強大な力の下に集結し地球連邦を築いた。それは性別による差別の無いユートピア社会。青年ジョニー・リコはカルメン・イバネスに思いを寄せながら、楽園での青春を謳歌していた。
②「だが敵は一方的に戦争を望む」
しかし宇宙では、昆虫型宇宙生物(アラクニド・バグズ)との全面戦争が行われていた。これはバグ共による奇襲攻撃から始まった人類への許されざる挑戦であった。
③「敵は悪魔のような存在だ」
バグ共は人間を容赦無く殺戮する。体を引き裂き、酸で溶かす。エサを求めるのでは無く、殺すために人間を襲うのだ。
④「我々は領土では無く使命のために戦う」
イバネスと共にバグ共を蹴散らすため、リコは入隊した。兵役に就けば市民権が与えられる。一般人を守るのが市民の役目だ。
⑤「そしてこの使命は崇高なものである」
卑怯にもバグ共の奇襲により、一般人であったリコの両親は亡くなった。一般人のために、ましては親の仇のために戦うのは立派なことである。
⑥「我々も誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為におよんでいる」
戦地へ向かう最中、リコたちを取材したリポーターは「人類による領地侵犯が戦争の原因」と話した。確かにそうかもしれない。しかし、バグ共は罪の無い一般人を大勢殺した。許されるはずが無い。
⑦「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
大型のアラクニド・バグズであるタンカー・バグは突然地面から現れ、兵士たちを焼き殺した。司令塔のブレイン・バグは、人間の脳を吸い取って情報を盗み出していた。おぞましい連中だ。
⑧「我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
戦いによりリコは多くの戦友を亡くした。しかしそれ以上にバグ共は駆逐され、巣は爆破された。巨大なタンカー・バグもリコの奮闘により爆散した。
⑨「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
この戦争は正しいのか。リコの恩師であるラズチャックは、リコが自分の意志で兵士に志願するのを心から支持した。ちなみに彼もまた愛国者であった。
このように、10の法則の内9つは劇中で丁寧に描かれていた。では最後の一つは? 10番目の法則は「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者だ」である。これについては面白い演出がされている。それは劇中でのナレーション。連邦軍の活躍を掻い摘んで説明し、最後に一言。「もっと知りたいですか?」と語りかける。これが実に上手い。一方的に連邦軍の正しさ、強さを説明し、間髪入れずに「もっと知りたいですか?」と言って次の説明に移る。疑問を投げかける暇さえ与えない。
テーマがSFであるからこそB級パニック映画となったが、よく噛み締めればプロパガンダが顔をのぞかせる。パロディとは気づかなかったワシントン・ポストが「ナチズム礼賛映画」と酷評したのも納得の異色SFであった。