近藤啓二

遊星からの物体Xの近藤啓二のレビュー・感想・評価

遊星からの物体X(1982年製作の映画)
4.5
最近、切り取り動画などで見せ場だけを楽しめてしまうが、中古DVD購入を期に改めて見直してみた。

現代の作品に比べると、やはりテンポや構成がややオールディーズに感じられる。
当時はSFXともてはやされたロブ・ボッティンの高い特撮技術は、今もそれほど古びたモノには見えないが、撮影上の物理的制約に知恵を絞った作品という古きよきクラシックな印象に醸造されつつある。

この物理的制約というのがくせ者で、それを超えて出来るならやってしまおうとするたび転んでいる気がする。 
それが本作に続くリメイク版との違いだと思われる。

今回改めて気づいたのは、本作の怪物が人間たちを襲う、具体的なシーンがほとんどないということだった。

当初はボディスーツの怪物を想定していたらしいが、前任者の離脱などがあり、弱冠二十歳のロブ・ボッティンが担当することになった。
彼が怪物のデザインを無形のグロテスクな存在に一新、変異表現に注力したため、本作キービジュアルのクオリティがあがったと思われる。

この複雑なデザインの、特殊造形をセット内をバタバタと動かせないのが、物理的制約だったろう。
それゆえ「正体がバレた結果としてのソレら」を中心に描かれている。

ソレがいつ、
どのようにして、
人間になるのか。

そもそも、どこからきて、
何を考え、
何を目的にしているのか。

ほとんど描かれていない。

犬という異種に始まり、人間と同じ姿形に。
言葉を話し、さらに何くわぬ顔で一緒に怪物退治にまで加わっていたという、不気味さ。
ソレらは正体がバレる度に、確実により人間存在に近づいてくる。
同じ姿、同じ言葉を話す相手は仲間、という人間社会の前提をズルズルと乗り越えて侵食してくる精神的怖さだ。

リメイク版の失敗は安っぽい前日譚とともに、怪物たちをCGで動かせる時代になったことで、逆にこのミステリアスな要素を失ったことにある。
オリジナルがセット中をバタバタ走り回る安易な着ぐるみモンスター展開を削ぎ落としたことで、秀逸な要素を手に入れたにもかかわらず。

やったらいい、というものではない。
近藤啓二

近藤啓二