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三重スパイのSariのレビュー・感想・評価

三重スパイ(2003年製作の映画)
3.8
ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠エリック・ロメールの異色作。

国際的謀略に関わる亡命ロシア人スパイの日常を家庭内の純真な妻の視点でとらえたサスペンス。

第二次世界大戦直前のパリが舞台。
1936年5月3日、国民議会選挙での人民戦線の勝利に沸く市民。パリに本部をおく帝政派のロシア白軍機関で働くフョードル・ヴォローニン(セルジュ・レンコ)はギリシャ人の妻アルシノエ(カテリーナ・ディダスカルー)と暮らす。政治に無関心なアマチュア画家アルシノエは、上層階に住む共産主義者のインテリ夫婦と親しくなるが、情報工作が仕事の夫フョードルの外での活動のことはほとんど知らない。彼はスターリンの共産ソ連、ヒトラーのナチス・ドイツのスパイとの疑惑もある…。

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ロメールはフランス大革命の史実を英国女性の目でとらえた『グレースと公爵』(2001)に続き、共産主義、社会主義、ファシズムがヨーロッパの覇権をめぐって複雑に対立する1930年代の謀略に関わる夫の日常を描く、初の悲劇『三重スパイ』を監督。

戦争、歴史の題材が重厚さを醸す一方、訳ありの仕事に就く者の夫婦関係を、妻の視点と巧みな台詞の応酬(もっぱら室内を舞台とした会話劇)と、歴史的事件のニュース映像、ラジオ、新聞によって間接的に提示される。

当時を再現したクラシカルで重厚なインテリアや絵画、ファッションなど芳醇な色彩のコントラストにも魅了される。

『海辺のポーリーヌ』『夏物語』のアマンダ・ラングレが、共産党員のインテリ妻として出演。
トリュフォーが監督した『終電車』を想起させるのは、主演女優の艶っぽさとややドヌーヴを彷彿とさせる顔のせいだろうか。
アマンダ・ラングレと共に、晩年となったロメールの女性の趣味、作風のスタンスも一貫している。

◾️予備知識
本作『三重スパイ』は、フランスでは有名な事件だそう、1937年9月22日にパリで起きた旧白軍軍人のミレル=スコブリン事件に想を得ている。亡命白軍の指導者エフゲニー・ミレル(1867-1939)が側近のニコライ・スコブリン(1885-1937)に拉致されたとされる事件。フョードル・ヴォローニンのモデルとなったスコブリンはスターリンによる赤軍将校の大粛清にも関わった人物である。
妻から見た夫のサスペンスとしてヒッチコック『断壁』(1941)との比較もあるようだ。
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