グラビティボルト

人間の約束のグラビティボルトのレビュー・感想・評価

人間の約束(1986年製作の映画)
4.0
吉田喜重二作目。介護映画。
誰もがブチ当たる「老い」が映画として正視出来なくなるぎりぎりまで描かれている事に戦慄する。
鏡、水面を通して己の顔を見詰めるショット、フレーム外から聞こえる死を望む老人の声、父の老いと錯乱を真正面から見詰める家族、鮮烈。
観てて心底げっっそりする映画だけど、構図、ショットはキレキレ。
老女が120分強のうちに三度も死に損なう映画で、その業の深さにも唖然とするしかない。

三國連太郎が村瀬幸子演じる老妻を病院に入れるシーン、ベッドを区切るカーテンナメの三國の顔アップ、フレーム外から「死にたい」という声がする場面は圧巻。
三國連太郎と河原崎長一郎の父子が、今後の入院生活について語らうシーンも凄い。
ソファに座る二人の左右に通路のある廊下のレイアウトも相まって完全に二人が分断される。
このショットは、終盤の「犯行」シーンの二人の関係性にも一致する。
犯行後、目線は合うが既に遅い。

高齢者介護という題材を通して、社会、家族の在り方を問う・・・という表面的な映画のパッケージに収まらない表現が沢山あった。
河原崎長一郎が車で帰宅するシーンの夜闇、黒すぎて自宅からの光以外なにも見えない濃さが理屈抜きに印象に残る。
桶に溜まる水面の揺れも凄まじい。